長野

<明日のまちづくり>(下)茅野市、観光資源の活用戦略

2015年4月17日

ロビーに掲げられた国宝土偶の大型タペストリー=茅野市役所で

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 茅野市役所の正面玄関を入ると、吹き抜けのロビーに掲げられた国宝土偶「仮面の女神」「縄文のビーナス」のタペストリーが目に飛び込んでくる。市内の縄文遺跡は二百三十カ所を超え、国宝土偶を複数所有するのは全国でも同市だけ。昨年八月に仮面の女神が国宝指定されたのを機に、縄文文化が花開いたまちをアピールする動きが加速している。

 市は二〇一〇年に縄文プロジェクト構想を策定、縄文をキーワードにしたまちづくりに取り組む。「縄文の文化や精神性は現代社会が抱える課題を解決する糸口を与える」とし、小中学校の授業には「縄文科」を導入。人づくりにも結び付けようとしている。

 本年度は、八ケ岳山麓の縄文遺跡群の世界文化遺産登録に向けた調査研究に乗り出す。文化遺産の保護に関わる国際記念物遺跡会議(イコモス)国内委員会のパートナーシップ事業にも参加。情報発信力を高め、世界に「縄文」を売り込む。

 茅野を訪れる観光客は一九九一年の五百三十二万人をピークに減少し、昨年は三百十九万人。全盛期の六割程度まで落ち込んでいる。「世界遺産登録は、人を呼び込む起爆剤になる」と市の担当者は期待するが、同時に「市民にも遺産を守り続ける価値観の共有と取り組みが求められる」と指摘する。登録を目指すには他の自治体との広域的な連携も不可欠。乗り越えなければならない課題は多い。

 茅野市は縄文遺跡だけでなく、白樺湖や蓼科高原など多くの観光資源を有する。その「宝」にも時代の変化とともにさまざまな問題が出てきた。

 白樺湖畔は経営破綻などによるホテルの廃屋が目立つようになった。景観を阻害するだけでなく、放置状態が続くと倒壊などの危険性がある。大規模ホテルの廃屋が残されたままの土地を所有する柏原財産区は昨年十一月、ホテル側に建物の収去と土地の明け渡しを求める訴えを起こすと決めた。「このままだと白樺湖全体がどんどんだめになる」。財産区総代の北沢健さん(61)は訴訟に踏み切らざるを得ない思いを語る。

 ホテルは二〇〇七年に破産した。訴えが認められれば建物の取り壊しも可能になるが、多額の費用を一体どこが負担するのか。「白樺湖の活性化に向けたビジョンを、市の支援を得ながら考えていきたい」と北沢さん。そこから最善策を見いだそうとしている。

 蓼科中央高原では、太陽光発電施設の建設に対して「景観を損ない、観光業者の営業に悪影響が及ぶ」と住民が反発。裁判所に建設差し止めの仮処分を申請する事態になった。業者と和解が成立したものの、住民側は乱開発を防ぐ規制を市に要請。「観光という大きな事業をどう考えているのか。観光資源を守っていく政策を打ち出してほしい」と不満をぶつけた。

 「人も自然も元気で豊か 躍動する高原都市」を標榜(ひょうぼう)する茅野市。恵まれた観光資源を地域の発展に生かしていくには、それぞれが持つ魅力を再確認し、戦略的な展望を描く必要がある。

 (中沢稔之)