長野

<おらほの自治>(5)政務活動費どこへ

2015年3月20日

問題となった安曇野市議視察旅行の行程表。2日目には「なんばグランド花月」も組み込まれている

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 視察先として書かれていたのは、大阪の「なんばグランド花月」。

 「お笑い?」

 安曇野市の会社員矢沢猛彦(29)は昨春、市の議会事務局で議員の政務活動費の報告書を閲覧していて、目を疑った。

 市議会二会派の十人が和歌山市で開かれた観光フォーラムに出席した後、「観光振興視察」と称して神戸市でクルーズを体験、翌日に吉本新喜劇を観劇していた。一連の視察はパック旅行だったため、すべて政務活動費が充てられた。

 「こんなんで、ええんか」。矢沢は二年前の市議選に出馬し、落選している。驚きが憤りに変わった。

 議会事務局に聞いても「問題ないらしいですよ」と気にしていない様子。しかし、どう考えてもおかしいと住民監査請求した。監査結果は、二日間の視察のうち吉本やクルーズなど七割は「政務活動に当たらない」とする内容だった。

 矢沢にとっては当然と言える結果だが、聞こえてきたのは言い訳じみた弁解。「市民とわれわれの考え方にズレがあったのかもしれない」と答える議員もいた。矢沢はあぜんとして力が抜けた。

      ◇

 政務活動費は、視察や書籍の購入などの議会活動のために支給されるお金。会社で言えば「経費」に該当する。議会活動の強化のため、二〇〇〇年の地方自治法改正で制度化され、一二年に現在の名称になった。

 ただ、不適切な使われ方が問題化して「第二報酬」と批判されることも多い。昨年、「号泣会見」で有名になった元兵庫県議が追及を受けたのも、カラ出張など政務活動費の不正受給だった。

 問題が相次ぎ、政務活動費の不要論も出る中、塩尻市議会は年九万円の政務活動費を新年度から廃止することを決めた。

 「自分のお金で調査研究するのが私の主義。あんな少ない政務活動費なら視察も飲まず食わずだわ」。廃止を進めた議長の五味東條(71)は言う。

 活動をまかなうには金額が少なく、使い勝手が悪いということのようだが、政務活動費の廃止は、月四万八千円の議員報酬増とセットとなっている。

 報酬増は、市長の求めた議員定数削減に応じた引き換えの措置。だが、報酬が増えたからと言って、正しく使えば何の問題もない政務活動費をなくす必要まであったのか。

 廃止の議案は通ったが、市議の中には反対意見も根強かった。ある市議は「政務活動費は一つの活動報告。廃止すると透明性が失われる」と訴える。

 塩尻市議会の動向を知った矢沢も釈然としない思いを吐露する。「政務活動費は議員の政策立案を支援する制度。それを廃止するのが議会の意思なのか。議員の本分が骨抜きになったみたいだ」

      ◇

 あなたの町で、議会と市民の距離感が遠くなってはいないだろうか。最終回は、どん底まで落ちたある町議会の話。「このままではいけない」と、議員たちが動き始めた。

 (文中敬称略)