長野

<おらほの自治>(1)火中のクリ、目の前に

2015年3月16日

過去の議会報告会の資料に目を通す富井走一さん=野沢温泉村で

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 「かんまぜる人」

 野沢温泉村議の富井走一(62)は、地元でこう呼ばれることがある。

 議論をあいまいにせずに、かき混ぜるという意味という。人口三千八百人の小さい村では、良い響きではないのかもしれない。「だから選挙に出すな」と言われたこともあるくらいだから。

 曲がったことが嫌いな性分。本人は「昔に比べて柔らかくなったつもり」と言うが、おかしいと思えば、町長ともやり合う。村が出してきた議案にも淡々と賛成したりはしない。気になれば、住民に直接意見を聞きに回って賛否を考える。

 昨年の九月議会にスキー場のリフト料金を値上げする議案が提出された時は、村から説明を受けたその足で、知り合いが経営する旅館に出向き、七、八人から意見を聞いて回った。「それは困る」と聞いて議案に反対し、経営者側の意見を議場で代弁した。

 議員報酬を増額する議案が出されれば、飲みに行った先や会合で隣り合った村民三十人に賛否を尋ねた上で、やはり反対に回った。

 議案はいずれも可決されたが、「村のことを本当にチェックをしないといけない」という思いで動いている。村長の富井俊雄も「信念を曲げない人」と姿勢を評価する。

      ◇

 二〇〇一年に村議に初当選して以来、富井が大事にしているのが、住民向けの議会報告会だ。

 年に四回ある定例会が終わるたびに支援者や区長らを集会所に招き、議会で決まったことや新しい村の事業、スキー場の経営状況といった村の課題を伝える。質問が出れば村に問い合わせながら一つ一つ答える。

 「村の状況を伝えるのは、議員の使命。聞いた事は包み隠さず報告したい」。富井は、典型的な地元密着型の地方議員といえる。とはいえ、これまでの議員生活は穏やかなものではなかった。

 曲がったことが嫌いなだけでなく、頼まれると断り切れない性格。つい、火中のクリに手を伸ばしてしまう。

 十年前の村長選の時もそうだった。

 飯山市との合併問題が過熱していた〇五年。合併に反対する候補に対抗するため、合併推進派だった富井は、村長選の候補者となった。直前に、自身が提案した住民投票で推進側が敗北し、責任を取る形で村議を辞職していた。

 もともと出る気はなかったが、合併の必要性を説明してほしいと同級生らから何度も頼み込まれた。「断る勇気がなくて、丸め込まれちゃった」。引き受けたのは告示の三日前。選挙戦は、自宅に無言電話が掛かるほどの激戦だった。五百票差で落選し、村は自立の道を進むことになった。

 富井はその後、再び村議を一期務め、〇九年の村議選で落選した。旅館経営から身を引いたこともあり、次の村議選には立候補することはないと思っていた。

 ところが、四年後、富井の目の前に再び火中のクリが転がってくる。

 一三年村議選で、村は発足以来の危機に直面していた。「君しかいない」。こう口説かれて動いた富井は、「村の救世主」と呼ばれることになる。

 (文中敬称略)

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 四年に一度の統一地方選が目前に迫る。「地方自治は民主主義の学校」と言われるが、果たして地方の自治は私たちの思いを反映させてくれているのだろうか。身近だけど意外と知られていない自治の現場を歩いた。