三重

<知事選 争点の現場から>(下)中小企業振興

2015年4月3日

景気の先行きが見通せない現状を語る国吉修司社長。県には「堅実な産業振興に力を入れてほしい」と望む=鈴鹿市安塚町のエース設備で

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 「アベノミクス? 中小は圧倒的に厳しいよ」。従業員八人を抱える「エース設備」の国吉修司社長(63)の表情は浮かない。

 ホンダ自動車のお膝元、鈴鹿市で自動車の組み立て時に使用する運搬機械を製造している。二〇〇八年のリーマン・ショック後、売り上げは三千万円台に落ち込んだが、昨年は一億五千万円まで回復し、黒字も三百万円ほど出た。円安効果でホンダや日産の海外工場から注文が舞い込んだからだ。

 しかし、どれも単発で「円高に戻れば期待できない」。リーマン後に積もった借金がまだ残り、「一年先が読めないようじゃ、景気が上向いたなんて実感できない」

 中小企業が圧倒的に多い三重県。一四年の統計では、県内の五万六千社の99・8%を占め、大企業は百社に満たない。従業員数でも87%の四十二万人に上り、中小の業績は県民の暮らしに直結している。

 強みとされる製造業でも、大企業の恩恵はしたたり落ちていない。県の製造品出荷額は一三年、全国九位の十兆四千億円に達した。このうち七兆円を占める大企業は、リーマン直後の〇九年より一兆円増やしたが、中小は当時と同じ三兆四千億円のまま。県の担当者は「原材料の高騰もあり、中小全体の底上げは容易ではない」と話す。

 県は昨年、中小企業・小規模企業振興条例を制定し、きめ細かな支援策を盛り込んだ。その一つ、県版経営向上計画は分野ごとの専門家や経営指導員を派遣し、業績改善に向けた戦略を一緒に練るサービスで、延べ百六十六社が作成や実行に移している。

 四日市市の東邦エンジニアリングは、半導体の基板加工の分野に参入するため、このサービスを利用した。半導体の基板はシリコンに代わる新素材が導入され、トヨタの次世代ハイブリッドカーのバッテリーに使われるなど将来的な需要が見込まれている。

 同社は事業展開のノウハウがないため、指導員らの派遣を依頼。市場分析や利用できる補助金、取引先と会える商談会を教わり、年内の参入に向けた計画を立てた。鈴木辰俊社長(60)は「県のサポートは手厚い」と感謝する。

 従業員八人の同社は、中国向けに半導体の関連機器を輸出しているが、現地で製造技術が定着すれば需要はなくなり、会社は立ちゆかなくなる。鈴木社長は「余力があるうちに次の一手を打たないと中小は生き残れない」と語る。

 一方で、余力そのものがないとの声も聞かれる。エース設備の国吉社長は「県の補助金を使って設備投資をしようにも、百万円台では額が小さい」とぼやく。「世界に通用する技術開発」や県が成長分野として期待をかける航空宇宙産業向けのメニューが目立つのも二の足を踏ませる。

 「県には堅実な産業振興にもっと力を入れてほしい」。社長の言葉には、新しいビジネスだけではなく、その日暮らしがやっとの企業にも光を当ててほしいとの思いがにじむ。

 (添田隆典、滝田健司)

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