三重

<知事選 争点の現場から>(中)農業問題

2015年4月2日

ビニールハウスでカボチャを栽培する石倉さん。「新規就農者が個人同士の話し合いで農地を借りるのは難しい」と訴える=紀北町海山区便ノ山で

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 二〇一四年の国の調査で、県内の農業従事者数は七万九百人。前年から五千人も減った。一方で新たに農業を始める人は毎年百二十人前後だ。「新規参入のハードルを下げるしかない」。行政も農家も、現状打破のキーワードを知っていながら、道のりは険しい。

 「とにかく農地の確保に苦労した」。紀北町海山区の銚子川沿いでカボチャやニンニクを栽培する石倉至さん(35)は三年前、会社員から転職して専業農家になった。当時、知人の紹介で北中勢地域の耕作放棄地五カ所を見て回ったが、持ち主から「経験もないのに農業ができるのか」と提供を断られ続けた。

 県の窓口を頼っても土地の案内にすら至らず、出身地の紀北町の仲介でなんとか四十アールの農地を確保した。「新規就農者が個人同士の話し合いで農地を借りるのは難しい。最初の段階でやる気をそがれないよう、もっと行政が貸し手と借り手の間に入って支援をしてほしい」と訴える。

 県によると、一三年に県内で新しく農業を始めた四十五歳未満の人は百三十五人。一五年以降は年間百八十人の新規就農を目指している。一五年度からは目標達成のため、企業や福祉事業所の農業参入を支援する事業を始めることを決めた。設備投資などが必要な参入時の負担を軽減する制度で、五月ごろから運用を始める。

 しかし他県には、さらに先を行く試みもある。島根県は一〇年から「半農半X(エックス)」と銘打ち、他の仕事をしながら農業を始めた人に二年間で最大二百八十八万円を給付する制度を始めた。

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 「X」に当たる仕事は介護、看護、保育などのほか原則自由。担当者は「最初から農業だけで生計を立てるのは簡単ではない。まずはできる範囲で気軽に農業に親しんでもらうことを考えた」と説明する。

 給付は県外からの移住者が対象で、人口減対策も兼ねている。これまでに三十四人が利用。「半農」でスタートして軌道に乗り、専業農家に移行した人もいるという。

 石倉さんはこの制度を「農業の問題と過疎化など、地域の課題の解決を同時に考える視点は重要」と評価する。現在「買い物難民」と言われる高齢者に野菜を販売する活動を検討しているが、採算を考えると継続した取り組みは難しそうという。「例えば、そうした取り組みを行政が支援してくれれば、農家は新しい販路を得られるし、地域の人も助かるのではないか」と提案する。

 (浅井貴司)