三重

<知事選 争点の現場から>(上)少子化と子育て支援

2015年4月1日

 十二日投開票の知事選では、いずれも無所属で新人の団体役員藤井新一さん(56)=共産推薦=と現職の鈴木英敬さん(40)=自民、公明、新政みえ推薦=が県内各地を巡り、さまざまな政策を訴えている。県内に暮らす人たちはいま、両候補の訴えのどこに耳を傾け、県政に何を求めているのか。争点の現場から探る。

 「もし自分が病気になったら、誰にこの子を預けたらいいか…」。伊勢市の主婦山中歩さん(34)は、二歳の長女の手を取りながら悩みを打ち明ける。広島県出身の山中さんは、夫が仕事でいない平日の昼間は長女と自宅で二人きり。万一の際に子どもを託せる親族は近くにいない。夏には二人目も出産予定だという。

鳥羽市への定住促進をPRするポスター。多くの自治体にとって、少子化対策は生き残りのための重要な課題だ=鳥羽市役所で

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 四月から国が始める子ども・子育て支援新制度では、待機児童の解消を目指す認定こども園の増設や、地域の子育て支援の充実を掲げる。県内の各市町も、それぞれの実情に応じた事業計画を作り、施策に乗り出す。

 伊勢市は、育児への不安が大きい新生児期の訪問指導の充実、子どもの一時預かり事業の充実、延長・休日保育の実施施設の拡大など七項目を重点に挙げる。担当者は「制度開始に合わせ、重点項目を中心に充実させていきたい」と力を込める。

 経済的負担が大きい不妊治療への助成も、少子化対策の柱の一つだ。県は保険適用外の体外受精といった特定不妊治療への助成制度に加え、昨年からは独自に男性向け不妊治療への助成を開始。新年度からは人工授精への補助も始める。

 ただ、助成があっても高額な治療費は家計に重くのしかかる。六年がかりの不妊治療で二児に恵まれた県内の主婦(39)は、総額で八百万円を費やした。「出産や育児で休暇は取れても、不妊治療では仕事を休みにくい。松阪市以南には専門の医療機関もない」。現状では、治療環境の改善や支援も必要だと訴える。

 有識者でつくる日本創成会議は昨年、二〇四〇年に二十〜三十代の女性が半分以下に減ると試算する全国の自治体を公表。県内では約半数の自治体が該当し、ほとんどが県南部だった。

 「子育てするならゼッタイ鳥羽!」。近鉄名古屋−賢島間を走る車両に掲示された雑誌広告風のポスターには、こんな見出しが躍る。鳥羽市は中学卒業までの医療費無料化や二人目からの保育料無料など手厚い子育て支援策を打ち出している。三年前からは若い世代の移住を促そうと、市の支援策と特産品の紹介を絡めたポスターの掲示を始めた。

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 「人口が減る中で都会への情報発信が不可欠」と市の担当者。一九六〇年に三万人を超えていた市の人口は、近く二万人を下回りそうな勢い。若者が将来に期待を感じるような働く場所は、いまだ少ない。

 生き残りに知恵を絞るものの、台所事情の苦しい小さな自治体ほど国や県からの交付金に頼らざるを得ない。鳥羽市の担当者はこう訴える。「県には、小さな市町が生き延びるための心配りを国に働き掛けてほしい」

(中平雄大)