三重

<鈴木県政の4年>(上)行政運営の流儀

2015年2月24日

鈴木知事が初当選時に掲げた政策集

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 「この三年半でさまざまな成果が生まれた。皆が一致団結して、すべての力と知恵を出し、暗闇から光を取り戻した『天の岩戸開き』をほうふつとさせる」。昨年十一月の県議会本会議で、四月の知事選への出馬を表明した鈴木英敬知事(40)。任期中の歩みを神話になぞらえ、二期目への気概をみなぎらせた。

 民主が推す前津市長の対立候補を約一万票の僅差で破り、全国最年少知事として初当選を果たした二〇一一年から四年弱。現場主義を掲げ、対外的な情報発信を重視してきた。県秘書課によれば、住民と膝詰めで意見を交わす「みえの現場・すごいやんかトーク」は昨年十月で百回に到達。講演や番組出演、新聞・雑誌取材の回数は一月末現在で約五百三十回に上る。

 「北川は風呂敷を広げて大事業にチャレンジするタイプ。野呂は石橋をたたいて渡る堅実派だ」。自民のベテラン県議はかつての知事、北川正恭や野呂昭彦をこう評する。鈴木の人物像は「県内を走り回り、現場を見て話を聞く『パフォーマンス・ランナー』。明るく、県民の受けは(三人の中で)一番良い」と話す。

 二人と鈴木には違いがある。県議を務めた北川、松阪市長だった野呂は国政経験者とはいえ、バックボーンは地方政界。一方の鈴木は元官僚。第一次安倍政権の官邸スタッフも務めた「中央」の出身者だ。

 橋下徹大阪市長や石原慎太郎元東京都知事、佐賀県知事選への出馬で注目を集めた樋渡啓祐前武雄市長…。近年は「改革派」の看板を掲げる首長が多い。

 しかし、全国の知事の前身を調べると、中央集権のイメージで語られがちな官僚出身の知事は計二十八人。全体の約六割を占める。省庁別では総務省(旧自治省)出身が十三人と最多で、経済産業省(旧通商産業省)出身は「第二会派」の八人。両省の出身者で一大勢力を形成している。

 母校の東大や省庁、官邸を通じて築いたさまざまな人脈。鈴木と中央のパイプの太さを物語る一例が、一六年の主要国首脳会議(サミット)の誘致だ。当初は関係閣僚会合だけだったのが、締め切り直前に「メーンの本体会議も」とターゲットを格上げした。「官邸と『直結』していて情報をつかみ、目があると踏んでぎりぎりで手を上げた」。ある県議は、鈴木の真意を推し量る。

 こうした鈴木の流儀に、もちろん反発の声もある。共産党県委員会の幹部は「国がやろうとしていることをやっている官僚型県政だ。県議会も事実上のオール与党。施策から幸福感が生まれる県政に変えるべきだ」とばっさり。対立候補として十七日、県民主医療機関連合会の事務局次長、藤井新一(56)の擁立を発表した。

 鈴木が前回選で政策集と銘打ち、総人件費の二割削減などを掲げた公約冊子がある。表紙には幕末の志士・坂本龍馬を大きく取り上げ、変革への強い意気込みを打ち出している。

 快活さと若さ、そして行動力。しかし、鈴木は単なる改革派知事なのか。答えはノーだ。その真骨頂は、元官僚としての「手札」を生かした政治手腕にある。海千山千の県議たちが「したたかだ」とうなる巧みさは、次の知事選へ向けて打ってきた布石の周到さに表れている。(敬称略)

     ◇

 三月二十六日告示、四月十二日投開票の知事選まであと一カ月。再選を目指して立候補を表明した現職の鈴木英敬氏が手掛けた、四年間の県政運営と政治手腕を検証する。

 (相馬敬)

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