岐阜

<ぎふ自治考>(4)集団的自衛権(中津川市)

2015年3月29日

社民党の機関紙を手にする森広茂さん。党県連合の事務所には10年ほど前のポスターが張られていた=中津川市花戸町で

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 その日の新聞は、集団的自衛権の行使を可能にする法整備の大枠に自民、公明両党が合意したと伝えていた。「怒れちゃうよね。戦後、日本は戦争をしないことから出発したのに」。三月半ば、中津川市花戸町の社民党県連合の事務所で、代表の森広茂(76)は肩を落とした。

 四年前、旧坂下町議時代を含めて三期務めた市議を引退した。以来、県内では社民党の地方議員は出ていない。党員はピーク時の約九十人から四十七人に半減。今回の統一地方選でも公認候補の擁立を見送るという。「護憲の党」の存在感は薄れるばかりだ。

 七十年前の終戦間際、国民学校の一年生だった森が長野県山口村(現岐阜県中津川市)の自宅から見た名古屋の空は異様だった。おびただしい飛行機雲が一面を覆い、チカチカと光っていた。米軍のB29爆撃機が日本側のレーダーをかく乱する物質をまいているのだと、名古屋から疎開してきた人に聞いた。

 そして、敗戦。三年ほどはひどい食糧難で、学校の校庭が豆畑に変わった。

 「二度と戦争はしちゃいかん」との思いとは裏腹に、安倍政権は日本が戦後貫いてきた「専守防衛」の方針を変えようとしている。だが、地方選で憂う声はほとんど聞こえてこない。「地方議員だって意見書を可決して、中央に物を言うことができるのに」

 せめて地元の中津川市では社民党の候補を立てようと数人に声を掛けたが、断られた。同市議の報酬は月三十七万六千円。落選後の補償もない。「若い人に仕事を辞めてまで立ってくれとは、言いにくい」とぼやいた。

 「岐阜・九条の会」の代表世話人、吉田千秋(72)も安保法制の行方を気にかける。「ひと昔前はどんなに憲法九条がないがしろにされても、海外派兵はないと思っていた」

 自宅がある各務原市には航空自衛隊の基地がある。カンボジアでの平和維持活動、イラク戦争時の輸送活動…、自衛隊の性格が次第に変わってゆくことに不安を漏らす自衛官の知人もいる。

 九条の会のメンバーは毎月「九」の付く日に街頭で平和を訴える。「ちょっと考えてもらおう、というやんわりした組織」で、特定の投票行動は呼び掛けていない。

 それでも「こんな今だからこそ、地方議会にも国の課題につながる視点がほしい」。統一地方選で、候補者の口から平和への思いが語られるのを聞きたいと考えている。 =敬称略

 (木下大資)

 =終わり