岐阜

<ぎふ自治考>(1)細る地域(白川村平瀬地区)

2015年3月26日

地元の神社で往時を振り返る大塚さん。「にぎやかだった祭りも、今は続けるので精いっぱいだ」=白川村で

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 三月半ば、早めの夕げを済ませた白川村平瀬地区の年寄り衆が、組長宅に集まった。地区内に十ある組の一つ「八組」の寄り合い。大事なことはみな、この場で決めてきた。

 車座になり十人が膝を突き合わせる。お題は四月に迫った村議選。地元選出の議員の体調が思わしくなく、出馬するのか、しないのか、数日前から取り沙汰されていた。

 村に残る記録では、仮に平瀬地区から議員がいなくなれば、七十六年ぶりの一大事。だが…。「他に出るやつがおらんのに、話し合っても仕方がない」。あきらめ交じりの大塚茂夫(81)の言葉に、一同がうなずいた。

 平瀬地区は南北に流れる庄川沿いに民家が点在する村南部の細長い集落だ。世界遺産の合掌造り集落でにぎわう北部の地区と異なり、静けさに包まれる。

 地区で暮らす約三百二十人のうち、六十五歳以上が占める割合は四割を超える。若い世代が相次いで地区を出て、地区唯一の小学校は四年前廃校に。大塚の一人息子も名古屋に居を構えた。

 大塚は区長をはじめ、長年、地域の世話役を務めてきた。二人の兄は村議を務め、自身も一度出馬した。

 議員は「村の便利屋」と言ってはばからない。「橋が悪い」「道が悪い」。家業の酒屋の配達ついでに、地域の要望を聞いて回った兄たちの姿が原点にある。区長時代、地元議員と地区を歩いて回った。「体力、気力がないと務まらん。でも、今の若い者は政治に関心が低い。そもそも、若者もおらん」

 過疎地の議員のなり手不足は深刻だ。村議会の定数はこの十年で十人から八人に減った。それでも、前回の選挙は無投票だった。世代交代が進まず、議員の平均年齢は六三・五歳と、十年前よりも五歳上がった。

 村議会は昨秋、定数をさらに七人に減らした一方、議員報酬を月額十四万五千円から十八万円に上げた。「若い世代に政治に関心を持ってほしかった。十分ではないが、厳しい村の財政事情を踏まえた額」。十二年前から最年少村議の高桑徹司(52)は説明する。とはいえ、今回も無投票の可能性は濃厚だ。

 平瀬地区の夜が更けていく。川音だけが響く暗がりに、組長宅から漏れた明かりとため息が溶ける。「だれか他におらんのか」「いや、出る、といううわさもあるぞ」。堂々巡りは二時間余り続いた。

 =敬称略

(片山さゆみ)

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 四月三日告示の県議選を皮切りに、四年に一度の統一地方選が始まる。

 地方分権の実現をうたった「平成の大合併」から十年余。地方から都市への人口流出に歯止めはかからず、両者の「格差」は一層、広がったかのようだ。選挙を前に、いま一度、地方が抱える課題について考えたい。