岐阜

<地方創生 私なら>(2)小説家・中村航さんの提言

2015年3月4日

中村航さん

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 「マイルドヤンキー」なんて言葉が話題となったように、最近の若者は地元にとどまる人が多い印象がありました。単純な消費生活を送るという意味では、今や都会と地方との差はないとも感じていましたし。ところが、ニュースを見ると、若者は地方から都市部へ流出してしまっているという。これは率直に驚きでした。

 なるほど、大学進学など都市部に出て行く若者は必ずしも減っていないけれど、若者の数そのものは少子化で減っている。都市に流れる若者の割合は増えていると言えるのかもしれません。そのまま就職すれば、ますます住む場所を主体的に選ぶことは難しくなってしまう。

 僕自身、小説を書くこと自体はどこにいてもできます。しかし、出版社は圧倒的に東京に集中している。事務的なやりとりはメールで済ませても、よい仕事に巡り合うためには編集者との顔と顔を突き合わせたコミュニケーションが欠かせません。東京を離れることは、作家としての可能性を縮めてしまうことだと思います。

 一方で東日本大震災以降、地方でいろんな人たちが知恵を絞り、さまざまな活動を始めているとも感じています。すべてにおいて飽和気味の東京は、何か新しいことを始めようとしても大きな資本が必要だし、大勢の人の賛同が必要。似たような活動も多く、埋もれてしまいがちです。

 逆に地方では思い切りとんがったこともやりやすい。僕の周りでも農業と演劇の融合という面白い活動を始めた友人がいます。自由だなあとあこがれるし、そもそも東京で同じ活動ができたのかは疑わしい。新しい文化を発信したいと考える人たちには、チャンスは地方にこそある、と言いたい。岐阜は地方特有の排他的な側面があるという人もいますが、東京で暮らしていると地元には優しい人が多いなと、あらためて感じます。本当に新しいことは理解されにくいし、反発はつきものですが、受け入れる土壌はあると思います。

 (小笠原寛明)

 なかむら・こう 1969年、大垣市生まれ。2002年、「リレキショ」で文芸賞を受賞しデビュー。「100回泣くこと」がベストセラーに。2月に「僕らはまだ、恋をしていない!2(ローマ数字の2)」(ハルキ文庫)を刊行。