愛知

<政争の行方 江南市長選を前に>(下)乏しい財政力

2015年4月18日

江南市役所前に設置された市長選のポスター掲示板。未来を託すリーダーを選ぶ戦いがいよいよ始まる=江南市で

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 継続か変化か−。江南市長選と同じ構図で十二日に投開票された県議選江南市選挙区。五選を目指した奥村悠二と元市議の江口雅明の舌戦で、今後の市の発展を支えるとして何度も言及された場所がある。市東端に位置する安良町地区だ。

 市では四月、市街化調整区域の利用規制を緩和する条例が施行された。条例に基づき工場の建設が可能になったのが安良町地区の一部。県議選で両候補をそれぞれ支援した堀元と沢田和延も「あそこに企業を誘致する」と熱い視線を送る。

 背景には市の財政事情がある。財源の豊かさを示す財政力指数は二〇一三年度には0・8と県内の市で下位。起債を抑えて健全な財政を続けるものの、毎年の予算編成では財源が足りずに事業の先送りを迫られることも多い。

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 財源の少ない大きな要因は法人市民税収入の少なさだ。一三年には市民一人当たりの額で、名古屋市を除いた県内三十七市中三十六位。堀と沢田は企業誘致で、この額を上昇させたいと考えるが、現実は厳しい。

 企業誘致は、ほとんどの自治体が取り組んでいる課題で、特に尾張地方は激戦だ。昨年十一月の犬山市長選や二月の一宮市長選でも、各候補は企業誘致を公約に掲げた。

 江南市は四月、産業振興課に企業誘致の担当を新設したが、「よその自治体に比べてかなり出遅れている」と担当者。固定資産税の優遇などの具体策もまだなく、企業からの問い合わせには「これから力を入れていきます」としか答えられないという。

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 二人がともに目指している企業誘致は、一朝一夕で達成できるものではない。となると、別の形での財源確保が必要になる。

 堀が期待するのが国からの補助金だ。自民党衆院議員の江崎鉄磨(愛知10区)らを通じた「国とのパイプ」が現職である堀の強み。今までも市の大型事業には国から多くの補助金を引っ張ってきた。「江南の財政状況では補助金に頼らざるを得ない。パイプが詰まると補助金は下りてこない」と強調する。

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 一方の沢田は無駄な支出の削減を訴える。宮田導水路の上部に遊歩道や水路を造る事業は中止。市長の海外視察も取りやめ、市長退職金も大幅にカットするとしている。宮田導水路と海外視察については、既に三月議会で一五年度当初予算への付帯決議を市議会全会一致で可決し、見直しを求めた。

 市は、ごみ処理場や新体育館の建設など大型事業を抱える。さらに今回の市長選で、二人は中学三年までの医療費無料化など、今まで市が財政的な面から慎重に検討していた政策をそろって掲げた。

 昨年からさまざまな場で争いを見せてきた堀と沢田。勝利のために選んだ政策は、当選後に足かせになる可能性をはらんでいる。

 (敬称略。この連載は井上峻輔が担当しました)