愛知

<政争の行方 江南市長選を前に>(中)布袋駅高架化

2015年4月17日

名鉄犬山線布袋駅の仮駅舎。周辺では高架化に向けた工事が進められている

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 「新しい布袋駅にエスカレーターを設置する」。一月五日に開かれた江南商工会議所の賀詞交換会。市長あいさつの中で、堀元は市の新方針をさらりと明らかにした。

 会には、多数の財界関係者や市議が出席していた。市議会の保守系会派「江政クラブ」会長の河合正猛は、会場の外に出ると「やりやがった」と苦笑いを浮かべた。

 江政クラブ幹事長の沢田和延が市長選への立候補を正式に表明したのは、この三週間前。会派を挙げて支援する河合らとまとめ始めた公約には、独自の政策として「布袋駅へのエスカレーター設置」も入れる予定だった。

 名鉄犬山線布袋駅の高架化工事は、二〇一九年の完成を目指して進められている。新たに造られる駅舎へのエスカレーターの設置は、市民や議会からたびたび要望が出されていたが、市は慎重な姿勢を崩さなかった。主な理由は財政面だった。

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 高架化工事は市と県、名鉄の三者が共同で実施しているが、バリアフリーの面から設置が義務付けられているのはエレベーターのみ。エスカレーターの設置は市が単独で行う可能性が高く、建設費や維持費で億単位の負担が予想されるという。

 一カ月前の昨年十二月議会。市議から設置についての質問が出たが、市側から「設置する」との回答はなかった。そんな中での市長の突然の発言。河合は三月議会の一般質問でかみついた。

 「十二月に説明は一切なかった。議会軽視も甚だしい。思い付きでやるなら計画はいらない」。こう迫る河合に、堀は「皆さんの要望を受けて決めた。喜んでもらえるような意見は熟慮して、少しでも早くやれるようにしていきたい」と応じた。

 そんな両者に対して、布袋駅舎保存会理事の柴田広美(58)は「どっちもどっち。大事なのはそこではないでしょ」と素っ気ない。エスカレーターの設置は歓迎しつつ、「それを生かして、どんなまちをつくるかを考える必要がある」と指摘する。

 新駅舎は一六年度に名古屋方面、一九年度に犬山方面行きの各ホームでの利用開始を予定。それに合わせて駅前広場などの整備も佳境に入り、まちは大きな変化の時を迎えようとしている。

 しかし、柴田は「ハードを造るだけで、かつての商店が戻ってくるわけではない。結局駐車場ばかりで生活感のないまちができる可能性もある」。危機感さえ覚える。

 鉄道高架は、地元住民が長年待ち望んでいた新たなまちづくりのチャンスだ。駅前のにぎわい創出につなげるためにも、選ばれた市長は住民の声を聞きながら、絵を描く必要がある。(敬称略)