愛知

<渥美半島の10年 合併と田原市長選>(下)地盤沈下の観光

2015年4月16日

太平洋側からみた伊良湖岬。手前は恋路ケ浜=田原市日出町で

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 渥美半島の先端部分を占める伊良湖地区は、田原市の観光拠点だ。伊勢湾に面して遊歩道を楽しめる岬灯台や荒波の浸食で生まれた日出(ひい)の石門、島崎藤村の詩の舞台ともなった恋路ケ浜、魚市場に海水浴、トライアスロン…。

 高度経済成長期には、リゾートホテルや旅館、飲食店が次々と建った。だがバブル期を経て、人気に陰りが見える。特にこの十年は、観光施設やフェリーの閉鎖など、「地盤沈下」が甚だしい。

 県統計によると、市内を訪れる観光客は年三百万人前後。うち三十万人ほどが市内に宿泊する。単純比較する数字はないが、右肩下がりは続いている。

 地盤沈下の主要因は、伊勢湾岸道や東名高速などで交通の便が格段に良くなり、他の観光地に客が流れているとみられる。市の担当者は「売りは『自然』だが、観光客を長時間引き留めるだけの施設や仕掛けが少ない」と分析する。

 地元で旅館を経営する稲垣和比古さん(67)は「バブル期までは、海水浴シーズンは旅館街が観光客でごった返した。ようやく下げ止まった感はあるが、宿泊客はピーク時の三分の一程度」と打ち明ける。

 昨年、仲間らと結成した伊良湖岬観光協議会の会長。恋路ケ浜周辺を恋愛の聖地として売り出すなど“あるもの磨き”に活路を見いだす。市中心部の一部農家が始めたメロンやイチゴ狩りがこの十年で一気に定着したように、「行政を当てにせず、自分らで何とかせにゃ」と意気込む。

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 「あるもの」の代表格こそ、海。なかでも太平洋に面した赤羽根海岸は、サーフィンを愛する人たちに国内屈指の人気を誇る。年間延べ数十万人が訪れ、世界大会の開催実績もある。

 赤羽根町のカフェ経営小川史(ふみと)さん(36)はサーフィン好きが高じて大阪から移住した。

 「太平洋の朝日や夕日が美しい。夜は星がきれい。地元の人はよそ者の自分に優しいし、田舎暮らしを望む人にとって田原は、魅力の宝庫」と語る。

 だからこそ、助言を続ける。「サーフィン以外にも『良い』と思わせるものがないと、移住者は定着してくれない。仕事をあっせんする仕組みも必要だし、何よりも、もっと地元からのアピールが必要だ」

 足元に無限に広がっている田原の魅力。その発掘と発信は、行政や政治にも求められる。

 (那須政治が担当しました)