愛知

<渥美半島の10年 合併と田原市長選>(上)バス路線網

2015年4月15日

豊鉄バスで市中心部の高校に通学する高校生ら=田原市田原町で

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 渥美半島に位置する田原市が、現在の形になったのは十年前のことだ。

 田原、赤羽根、渥美の旧三町のうち、田原と赤羽根が二〇〇三年に合併し、〇五年に渥美町も加わった。

 市域は東西に三十キロ、南北に十キロと細長い。特徴的なのは、公共交通機関に乏しいことだ。

 豊橋鉄道三河田原駅は市東端にあり、そこから西側二十五キロ部分には鉄道がない。豊鉄バス(豊橋市)が運営する二本の路線バス網が、公共交通の“動静脈”とすれば、市が運営する「ぐるりんバス」は近隣集落間をめぐる“毛細血管”に当たる。

 最西端の伊良湖岬に近い日出(ひい)町の農業小久保秀範さん(40)の日課は、高校二年の長女(16)を自宅から二〜三キロ離れた豊鉄バスのバス停まで、車で送迎することだ。

 長女の高校は、自宅から二十五キロ離れた市東端の田原地区にある。バスの通学定期券代は、月換算で二万円強、小久保さんは「娘が高校に入り、この地区の不便さを思い知った」。

 合併から十年、西端にある旧渥美町の公共交通空白地帯は解消されていない。逆に、東端にある旧田原町の整備ばかりが耳に入ってくる。「格差の分だけ税金を減らしてほしいよね」と愚痴をこぼす。

 とはいえ、市は、公共交通網を維持するため、年二千万円弱を豊鉄バスに補助している。市の担当者は「学生やお年寄りの重要な足。廃止されては困る。経営改善で値下げできるよう、割引サービスの周知や利用促進を図っているのですが」と苦悩が続く。

 豊鉄バスがかつて廃止にした路線など八路線を走る市の「ぐるりんバス」も経営は著しく苦しい。一三年度の収支は、運賃収入千七百万円に対し、運行経費は約九千四百万円の大赤字だ。平均して、一便で五人以上が利用するのは二路線しかない。

 積み上がるばかりの赤字を負担するのは結局、市民だ。

 市は十月に、路線網を大幅再編し、一部路線を除いて運賃を百円から二百円に引き上げる。

 ただ、三河田原駅までの直通バスがなくなる地域もあり、高齢者らからは「バスを重宝している弱者切り捨てではないか」と不満の声が挙がる。

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 十九日告示、二十六日投開票の田原市長選を前に、市の課題を考察する。