<なごや市議選 激戦区をゆく>(下)
2015年4月9日
◆第三極、浮動票を争う 瑞穂区
市議選候補者の訴えを熱心に聞く有権者たち=瑞穂区で |
花冷えの八日。瑞穂区のホームセンター前の路上は熱気に包まれた。
「天守閣の木造復元より、やるべきことはたくさんある。小中学生の給食費無料化、名古屋で実現しようじゃありませんか」
市議選の百三十六人の候補者のうち、同じ共産の女性と並ぶ最年少、二十五歳の加能拓人が思い切り手を振り、よく通る声を張り上げた。
全十六選挙区に計十七人を擁立した共産は、改選前の五議席から大幅増をもくろむ。議席を獲得したことがない瑞穂区だが、一九九九年には当選ラインに二十六票差まで迫った。昨年十二月の衆院選の躍進で、「ここでも手応えは十分」と陣営は勢いづく。
定数一減で激戦となり、組織票が重みを増すが、むろん浮動票を呼び込めなければ当選ラインに届かない。
衆院選では東海三県で四議席を獲得、今回の市議選に十五人を立てた維新も同じだ。
「行財政改革で財源は捻出できる。待機児童対策に力を入れるべきだ」。四日夕、地元の衆院議員と街頭に並んだ塚本剛志が、公約である「身を切る改革」を前面に他党との差別化を図ろうとする。「現職衆院議員の知名度をフル活用する」と陣営。元秘書として地元をこまめに回ってきた経験が強みだ。
定数四だった前回、二人を擁立して票の底上げが奏功、二議席を得た減税日本。だが、その二人は今回、敵味方に分かれた。トップ当選したものの党を離れた荒川和夫は政治団体「生活なごや」から出馬。「(河村たかし)市長はパフォーマンスに優れているが、行政のプロとして手腕はない」と批判。後ろ盾はなくなったが、地元の助産師として活躍した亡き母が培った草の根のネットワークを駆使する。
一方、減税に残った金城裕。「今、本当に厳しい状況。だからこそ、残ったわれわれが頑張っていかねば」。告示日の出発式で、悲壮感いっぱいに覚悟を口にした。市長の応援を受け、市民税5%減税や議員報酬半減の実績を訴える。
前回、みんなの党から出馬した川崎務も無所属で再挑戦する。
第三極を迎え撃つ自民と民主も、組織固めに余念がない。
「今の市政に必要なのは対話だ。市政を安定させ、皆さまの期待に応えたい」
日曜の昼、ショッピングセンター前で土居芳太は、買い物客に高齢者施策や子育て支援など堅実な市政の推進を語りかけた。傍らには、四期務めて今回引退した同じ中電労組出身の元市議。引き継いだ組織票から、上積みに懸命だ。
前回次点だった前田有一は三期務めた自民を離れ、無所属で再起を期す。次世代の推薦を受け保守層への働き掛けを強める。
五期目を目指す自民のベテラン、藤田和秀は緩みを警戒する。五日夜、小学校で開いた演説会。「今回は政策の中身ではなく、とにかく頼む、と言うしかありません」と支援者に訴える。用意した席は全て埋まり、椅子を追加した。
「減税旋風」がやんだ今、藤田は言い切る。「地元を誰が一番よく分かっているか。それを選んでもらうのが今回の選挙」
=敬称略
(市川泰之)