愛知

<なごや市議選 激戦区をゆく>(上)

2015年4月7日

◆2人公認や分裂不安 千種区

 名古屋市議選(定数七五)は競争率一・八一倍と、統一地方選の十七政令市議選の中で最も高く、四十一道府県議選を含めても大阪府議選に次ぐ全国有数の激戦だ。市長与党の地域政党の評価、前回選で苦杯をなめた既成政党の巻き返し、割って入る第三極の台頭など注目点は多い。三回にわたり千種、東、瑞穂の三選挙区で戦う候補の姿を追い、対決の構図を探る。

市議選候補者(左)の応援演説をする石破茂地方創生担当相=名古屋市千種区今池で

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 週末の四日夕方、千種区中心部の住宅街。スーパーへ買い物に行く女性たちに、山田昌弘は大きく手を振った。「子育て支援に取り組みます。皆さんの身近な相談窓口になりたい」。四年前の前回選で、再選を目指した西区で落選。秘書を務めた元国家戦略担当相、古川元久の地元に移って再起を図る。

 前回の惨敗が尾を引く民主。二人を公認できたのは三選挙区だけ。そのうち定数が最も少ない千種区で二人とも当選すれば、「民主王国」復活の足掛かりとなる。

 もう一人の斎藤亮人。六期目を目指すベテランだが、有力衆院議員を後ろ盾とする山田に、内心穏やかでない。告示日直前に交通事故で骨折し、一時入院。「痛みはあるが、直接訴えないと」。本来なら安静にしなければならないが、一日一回だけ街頭でマイクを握る。

 さらに、四年前の県議選を民主公認で戦った佐野洋一郎が、今回は維新から出馬。民主票の分散は避けられず、党関係者は「支持率は戻っていない。共倒れの可能性すらある」と気をもむ。

 同じ四日の午後。今池交差点に、百人以上の人だかりができた。視線の先にいたのは、自民候補の応援に駆け付けた地方創生担当相、石破茂。政権与党の勢いを見せつけた。

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 だが民主同様、二人を擁立した自民も不安は同じ。前回、二人目を七票差で逃した記憶が鮮明に残る。

 「早過ぎると言われることもあるが、少子化問題などに取り組みたい」。石破の到着前、二十七歳の新人、蔦絵梨奈がピンクのジャンパー姿で力を込めた。

 続いてマイクを握った伊神邦彦は、当選六回の大先輩として激励の言葉をかける。「皆さんの力で、千種に女性議員を生んでほしい」。だが、医師や企業に支持を広げる蔦に、伊神の陣営は危機感を募らせる。「自民の票が一方に偏れば、負けるのはこっち。後援会などを固めなければ」

 第三極の争いも激烈で、既存政党への批判票は割れざるをえない。市議会解散請求(リコール)運動で弾みを付け、出直し選で大勝した減税日本は会派が分裂。前回減税で当選した黒川慶一が政治団体「生活なごや」から、玉置真悟が無所属で出馬。リコール運動にかかわり、無所属で臨んだ杉浦聡も政治団体「無所属の会」として再挑戦する。

 減税が新たに擁立した手塚将之だが、「有権者の間には、期待を裏切られたとの思いが強い」と手応えをつかみかねる。

 花見客でにぎわう今池公園。八年ぶりの議席を目指す共産は満を持して、元職より三十歳近く若い酒井健太朗にバトンタッチした。「自民から減税まで、他党は市民生活を軽視した市政を続けている」と攻める。

 近くの今池駅前では、前回トップ当選の田辺雄一が、地下鉄駅ホームの可動柵設置を推進した実績をアピール。女性支持者から拍手を受け、こう言い残して選挙カーに乗り込んだ。「千種は混戦、激戦、乱戦だ」

 =敬称略

(丸田稔之)