<自治のあした> (4)議会発の条例づくり
2019年3月21日
大津市議会の議場=大津市役所で |
「議員は普段、何をやっているのか分からない」「市議は市長にけちをつけているだけでしょ」
大津市議会局次長の清水克士(56)は、議会局の担当になった二〇〇九年四月から、市民にそう言われるたび「いやいや」と否定しながら、そうした言葉が出る理由が少し分かる気もしていた。議員の活動のほとんどは、市民の目になかなか映らないように思うからだ。
清水は市職員として企業局などを担当し、企業誘致を進める条例の制定に携わった経験もあった。「自分で書いた条例がまちづくりに役立っている」。そんな実感があった。
それなら議会も政策立案してみては−。市議会の改選を控えた四年前、「議案をつくったら、より議会を市民に知ってもらえるのでは」と話してみると、再選を目指す当時の市議たちは「先進的な取り組みになる」と乗り気になった。
こうして、改選から五カ月後の一五年九月に完成したのが「ミッションロードマップ」。政策立案や議会改革の行程を示しているため、いわば、市議会全体の「マニフェスト」だ。政策立案では、四年の任期中に三本の条例制定を掲げた。
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一つ目が、がん対策。がん対策の条例は全国各地で制定されているが、大津市議会では、対策の計画づくりを市に求め、女性特有のがん予防を個別の条文にしようと試みた。これは、十一年前に乳がんを患った女性市議の念願だった。
乳がん検診の受診率は当時、四割以下にとどまっていた。女性市議は市に「自分の早期発見はたまたま。受診率を上げるには、条例が必要だ」と何度も働き掛けてきたが、市の腰が重いように感じていた。
ロードマップをつくる話が浮上し、女性市議は「がん対策条例なら、議員全員が一つになれる」と所属会派に提案。議会内の「政策検討会議」で二重丸の評価を受け、議会全体の案件となった。市との協議を経て一六年三月に「がん対策推進条例」が成立した。
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ミッションロードマップは、議会発のユニークな取り組みとして、全国の自治体やシンクタンクから注目を集めた。今期で引退する議長の中野治郎(72)は「目標を市民に示せたのは有意義で、議員それぞれが市政課題の議論を深められた」と評価する。
だが、残りの二案は制定に至らなかった。そのうちの一つ、琵琶湖畔のまちづくりに住民の声を生かす条例は、一六年から三年かけて議論したものの、ほかの法律との整合などに時間がかかり、任期中の制定は断念した。それでも清水の目には、市議が市側と本気で議論しているように映った。
積極的に政策立案する議会に向け、大津市議会は一歩を踏み出した。清水は「価値観や意見が異なる市議同士が、会派を越えて交渉していた。議会全体がチームとして動く効果が生まれ、『議会力』が向上した」と手応えを感じている。
(文中敬称略)