統一地方選2019

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<自治のあした> (2)議員のなり手不足

2019年3月18日

さまざまなイベントに顔を出し、有権者との語らいを大事にする松本さん=長浜市で

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 十二年前の夏の夜を、忘れもしない。木之本町杉野(当時)の自宅に、自治会長の男性が突然訪ねてきた。時計の針は、午後九時をとうに回っていた。当時四十歳だった松本長治(52)は、いぶかりながら座敷に通した。

 自治会長が唐突に語り出したのは、地域が抱える課題。道路、下水道などについて一通り話が終わり、最後にこう告げられた。「おまん、選挙に出てみたらどうや」。一カ月半後に控えた木之本町議選への出馬の打診に、耳を疑った。

 ちょうど木之本町は、長浜市を含む周辺市町との合併問題に揺れていた。岐阜県境に近い山間部の杉野地区は、過疎高齢化が特に危ぶまれ、「合併しないと取り残される」という雰囲気が覆っていた。

 白羽の矢が立ったのが、若い松本。杉野地区には当時、三期目を迎えていた現職がいたものの、町議会の定数は前回選から六削減され、一〇と狭き門に。「若い力で合併を成し遂げてほしい」という機運も盛り上がっていた。

 松本は町役場に十年勤めた後、家業の旅館業を継ぎ、さらに十年が過ぎていた頃。行政経験に加え、自由が効く自営業というのも、打診を受けた理由の一つだと感じた。

 「ありえない」「ほかに出る人はいないのか」。自治会長に必死に抵抗したが、その後も二度、三度と口説かれた。他に手を挙げる人も一向に現れず、選挙も刻々と迫ってくる。「ここまで期待してくれている。全力でやるしかない」。腹を決めるしかなかった。

   ◇ 

 県内の選挙では近年、市町村合併が進まなかった他県のように、立候補者数が定数を下回るほどまでの「議員のなり手不足」はない。それでも「(初出馬の)当時から、地方議員のなり手を探すのは大変だった」。木之本町議(一期)を経て、合併後に長浜市議になり、現在三期目で議長を務める松本は、振り返る。

 総務省の「町村議会のあり方に関する研究会」が昨年三月にまとめた報告書では、議員のなり手不足の要因に、拘束時間の長さや、議員報酬だけでは生計を立てられない収入の少なさを挙げている。

 長浜市の場合、一般の市議の議員報酬は月額三十七万円、議長は四十六万円。町村議や民間企業に比べれば恵まれているものの、松本の場合、香典や飲食を伴う会合への出席などで出費はかさむ。相談事を持ち掛けられれば市内外を問わず出掛け、休みも月に一日あるかないか。家業は妻に任せっきりだ。

 ただ、なり手不足の核心は、別の理由だとも感じる。「根本的に、議会の仕事に魅力を感じてもらえていないからではないか」

 かつて議員は「地域と行政のパイプ役」として重宝がられた。だが、合併で市域が広がったことや、議員定数の削減もあって、その役割を自治会長らが担うケースが増えたと感じる。議会の仕事がスポットライトを浴びることも少なく、活動が有権者にどう映っているか心配だ。

 なり手不足を解消するには、まずは信頼される議会をつくること−。答えは明確に頭に浮かぶが、その道筋が簡単でないことも分かっている。

 (文中敬称略)

 

統一地方選の日程

前半戦
知事 告示3/21(木)
政令指定市 市長 告示3/24(日)
県議 告示3/29(金)
政令指定市 市議 告示
投開票4/7(日)
後半戦
一般市長、一般市議 告示4/14(日)
町村長、町村議 告示4/16(火)
投開票4/21(日)
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