統一地方選2019

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<自治のあした> (1)女性 政治参画の壁

2019年3月17日

 性別欄には「男」の文字しかなかった。二〇〇三年一月、旧五個荘町(現東近江市)の町長に当選した前田清子(63)は、しばし呆然(ぼうぜん)と書類を見つめた。

 県内初めての女性首長として、当選を決めた直後のこと。県に就任を届け出る書類には、丸を付けるべき「女」の文字が見当たらなかった。「女性の存在が認められていないのか」。「男」を二重線で消し、「女」と力強く書き込んだ。

 ◇ 

 前田が政治の世界に入ったのは一九九五年。その前は、長女のいじめ被害に悩んだり、近所の乱開発を心配したりする「普通の主婦」だった。学校との連携でいじめ被害が解消すると、同じ悩みを持つ母親たちが集まって来るようになった。

 「町の議会では、いじめはどんな風に扱われてるんやろ」。素朴な疑問から町議選に手を挙げると、開発問題への姿勢に共感を覚えた近所の女性らも応援してくれた。ふたを開ければ、トップ当選だった。

 当時、町議会の女性議員は前田を含めて二人だけ。議会の慣例にとらわれず、町政への疑問や意見を率直に口にする前田は、ほどなく、ベテラン男性議員らの「ターゲット」になった。

 真っ先にやり玉に挙げられたのが、地元向けに自腹で発行した広報紙。当時の町議会は、申し合わせ事項として広報紙は出さないことになっていたらしく、「みんなが作らなければいけなくなるやろ」と吐き捨てられた。それでも構わず、年二回の発行を続けた。

 嫌がらせは、これだけではなかった。パンツスタイルでいると「女ならスカートはいて来い」、町政に異を唱えれば「町長のおっしゃることに逆らうな」。町幹部の元を訪れると、困り顔で「前田さんにはあまりしゃべるなというお達しが、議会から来ている」と言われた。

 理由について「オール与党の議会の中で、私だけが野党というのはあった。やけど、それ以上に、女性やということが大きかった」と振り返る。救いだったのは、陰ながら応援してくれる女性や若手の職員がいたことだった。

   ◇ 

 県内ではその後、女性議員が増え、女性知事や女性市長も誕生した。県議会の女性議員の割合は16%を上回り、全国三位だ。

 それでも前田は、まだまだ物足りないと思う。「体力的に弱い女性に水準を合わせると、高齢者や障害者など、弱者に優しい社会になる」。生活に密着した問題を、女性目線から主張する代弁者の必要性は、大きいと確信する。

 だが、前田自身、苦い思い出がある。合併で誕生した東近江市の市議を二期務め、引退した二〇一三年、後継と見込んだ女性に出馬を断られた。依然として根強い「政治は男性のもの」というイメージが、その理由だ。管理職や自治会長を男性が占め、女性が人前で話す機会が少ないことが、なかなか壁を打ち崩せない原因の一つだと思う。

 それでも、町議時代に立ち上げた女性の会で街頭活動を続け、女性の政治参画を地道に訴える。「社会も、女性自身も、女性の力にまだ気付いていないだけなのです」

   ■  ■ 

 四年に一度の統一地方選が迫ってきた。人口減少時代にさしかかり、地域が過疎や高齢化、外国籍住民との共生などの課題を抱える中、低投票率や議員のなり手不足が慢性化し、地方自治の足元が揺らぎ出している。「ポスト平成」に向けた自治はどうあるべきか。湖国の現場を歩いた。

(文中敬称略)

 

統一地方選の日程

前半戦
知事 告示3/21(木)
政令指定市 市長 告示3/24(日)
県議 告示3/29(金)
政令指定市 市議 告示
投開票4/7(日)
後半戦
一般市長、一般市議 告示4/14(日)
町村長、町村議 告示4/16(火)
投開票4/21(日)
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