<県都のゆくえ 津市長選を前に> (下)在宅医療
2019年4月12日
女性の自宅を訪れて診察する山際院長=津市内で |
「痰(たん)が多くなるのは、体を動かしたからだと思いますよ」。津在宅ケア診療所(津市大谷町)の山際健太郎院長(58)が、寝たきりの女性に聴診器を当てた。家族や訪問看護のスタッフから普段の様子を聞き取り、必要な薬を処方した。
二〇一三年に診療所を開業した山際院長は在宅医療に力を入れ、百人ほどの患者を受け持つ。近隣の五つの診療所と連携し、容体が急変すれば二十四時間対応する。携帯電話と患者情報の入ったタブレット端末、往診かばんは手放せないという。
今後、高齢化は急速に進む。二月末時点の津市の人口は二十七万九千人で、医療制度で後期高齢者の七十五歳以上は四万二千人。市は、二五年には五千人増の四万七千人になると推計する。
国は医療費の抑制や病床数の削減を掲げ、「入院から在宅へ」の流れを加速させている。一方、昨年の国の意識調査では、末期がんで痛みがない場合、人生の最期を自宅で迎えたいと答えた人は七割以上を占める。
需要が高まる在宅医療だが、担える医師の数は限られている。山際院長の元には、通院が難しくなったが、かかりつけ医から往診を断られたという患者が紹介されてくる。山際院長は「介護に比べると、医療は在宅に対応できる医師の数がまだ足りていない」と在宅医の充実を訴える。
最期まで住み慣れた地域で暮らすには、医療と介護が連携する「地域包括ケア」の推進も欠かせない。市が一七年七月に開設した在宅療養支援センターでは、保健師と看護師・介護支援専門員が、一人一人の状況に合わせて医療と介護の現場をつなぐ。開設から約一年半の間に医療機関などから百四十件の相談が寄せられ、市の担当者は「橋渡しの機能を担っている」と手応えを語る。
昨年には、医療と介護の関係者がネットワーク上で患者情報を共有できる市独自のシステムを導入した。地域の訪問診療や介護サービスの情報を集めた冊子も十二万三千部作製し、全戸に配布した。
住み慣れた自宅や地域で人生の最期を迎えてもらうには、どうすればいいのか。今月六日夜、県内各地で在宅医療に携わる十一人の医師が津市に集まり、現状や課題を話し合った。
昨年度、六十人を在宅でみとった鈴鹿市の男性医師は「ぎりぎりまで病院で治療をする人が増え、自宅で過ごす時間が短くなった」と報告した。
「在宅医療のノウハウを若い医師にも伝えてほしい」(三重大講師)、「在宅医療にすると、何かあった時に再入院できないという誤解がある」(四日市市の医師)。本音の意見からは、理想と現実のはざまに立つ現場の苦悩がにじむ。
津市の担当者は「お年寄りが安心して暮らし続けられるような地域づくりをしていかなければならない」と言う。団塊の世代が七十五歳を迎える二五年は、目前に迫っている。
(斉藤和音が担当しました)