<ルポ激戦区> (4)多気郡区
2019年4月4日
「県民の信頼をなくしてしまったことが一番の問題だ。自分の議席を守るための保身と捉えられても仕方ない」
元多気町議で無所属新人の西川浩さんは告示後から、交差点でのつじ立ちなどで声を大にしてきた。四年前に落選したが、県議会がいったん決めた定数削減を覆したことに不信を抱き、急きょ再出馬を決意した。定数問題を前面に出したチラシも用意し、有権者に訴えている。
多気郡選挙区は、定数削減の撤回に賛成した現職二人に、反対する新人一人が挑む。顔ぶれこそ前回と同じだが、新たに浮上した争点が舌戦に変化をもたらしている。
県議会は二・六倍まで開いた一票の格差を是正するため、二〇一四年、人口の少ない県南部の議席を六つ減らし、定数四五にすると決めた。多気郡は一人区と定められた。しかし、改選まで一年に迫った昨年三月、県議会は定数を五一に戻す条例改正を一票差で可決した。
旧民進系地域政党、三重民主連合の現職の浜井初男さんは、県議会で定数削減の撤回に賛成した。告示日に多気町で開いた出陣式では、防災・減災対策や地方創生などに尽力すると訴え、定数の話題には触れなかった。「面積の広い多気郡が一人区になってしまうと、災害時に各地の声をまんべんなくくみ取れなくなる」。取材に対し、削減反対の理由を語った。
前回は西川さんに二百六十八票差まで迫られた。支援する連合三重松阪多気地域協議会の幹部は「今回も厳しい戦いになる。定数削減への立場がどう影響するか分からない」と漏らす。
前回、この二人を二倍以上の得票差で退けた自民現職の西場信行さんは、定数削減に反対の立場を繰り返し強調する。十期目を目指す今回、県内の自民候補は削減派が大勢ながら、人口だけを考慮して南部の議席を減らすことに県議会で一貫して反対してきた。「人口減少や高齢化など南部には深刻な問題がある。地域事情も考えないと」。地盤の明和町で開いた演説会でも熱弁を振るった。
会場で耳を傾けた地元の自治会長(68)は「経費削減のためにも定数は減らすべきだ。ただ、人柄や県全体のことを考えているかを評価して投票したい」と話す。
定数問題に決着をつけられるのは、県議選の当選者にほかならないが、有権者からは冷めた見方も聞かれる。
ある候補の演説を聴いていた多気町新田の男性(69)は「定数が人口減少などの問題にどれほど影響するのか、正直に言えば分からない」と言う。人口減も「議員が解決できる問題なのか」と首をかしげていた。
県議の存在感にさえ目を向けられる中、一票を託せるだけの訴えの中身が問われている。
(水谷元海)