<議会を身近に 地方自治の先進地から> (下)愛知県新城市 住民参加
2019年3月20日
2015年11月、若者議会の提言を市長に答申する竹下さん(左)=愛知県新城市で |
がらんとした図書館の郷土資料室は中高生が集まる自習スペースになり、閉館後も謎解きイベントなどを楽しむ市民でにぎわう。人口減少が進む愛知県新城市は、若者が発案した事業で変わりつつあった。
地方議員の大半を中高年が占める中、この市では十六〜二十九歳でつくる「若者議会」が二〇一五年に始まった。市内外の委員二十五人が考えだした事業を市長に答申し、新年度予算に組み込まれる。提言の事業化は全国でも珍しく、年間一千万円の予算枠が充てられている。
市議会は、三月定例会に新年度予算案が提案される前、若者議会から事業の説明を受ける。それでも市議会が審議を進めて採決間近になると、「提言はあれで良かったか」と心配する若者はいる。
地域の課題をさまざまな立場から議論し、よりよいまちづくりを導き出す。「民主主義の学校」と呼ばれる地方自治にあって、首長と並ぶ住民代表で構成する議会の重みを体感する場になっている。
若者議会の委員は、高校以上の学生が目立つが、会社員や子育て中の母親もいる。「故郷をもっと知りたかった」「新しいことをしてみたかった」。それぞれ動機があった。
市はポスターやチラシを通じて公募するだけではない。幅広い考えの人に集まってもらうため、住民基本台帳から無作為に抽出した対象市民に案内を送り、参加を呼び掛けている。手当は毎回三千円に交通費と、ボランティアに近い。
市内で生まれ育った現委員の中西航太郎さん(新城東高二年)は「住民の声を届ける政治の大切さが分かった。若者が地域のためにできることがまだまだある」と感じる。
これまでの委員の大半が一年間の任期後も、まちづくりに関わっている。「卒業生」でつくる一般社団法人で若者議会の運営を支えるほか、関心がある分野でボランティア団体を起こしたり、市総合計画の検討グループに参加したり。
一期生のリーダーで会社員だった竹下修平さん(28)は一七年の市議選に立候補し当選した。「若者議会を通じ故郷への思いが深まった。自分たちが思い描く未来を実現したかった」と転身の思いを語る。
若者の政治や地域への関心が高まるかは、議会の姿勢も問われる。
三重県議会は、主権者教育として「高校生県議会」を二年に一度開いているが、生徒の質問に県議が回答するにとどまる。小中高校を訪ねる出前講座では昨年、不適切な発言が相次いだ。ある県議が議員定数問題を巡って報道機関を「マスゴミ」と批判し、謝罪に追い込まれるなど、地方政治に関心を持ってもらう狙いは裏目に出た。
現職県議の平均年齢は約六十歳。平成最後となる二十九日告示の県議選で、平成生まれの立候補予定者は見当たらない。
◆愛知県犬山市・ビアンキ議長に聞く
愛知県犬山市に、米ニューヨーク出身の議長がいる。ビアンキ・アンソニー市議(60)は二〇一七年に議長に就任すると、市民が議場で市政への思いを語る「フリースピーチ」を導入した。日本の固定概念にとらわれない市民参加への思いを聞いた。
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フリースピーチは当たり前のことを始めただけ。私たちは市民の代表なので、市民の声を聞く。アメリカでは、犬山市くらいの規模の自治体は、議場で市民が話すのが普通だ。
以前から同じことを訴えてきたが、分かってもらえなかった。今回は議長の提案だからと実現できた。議長はシナリオを読むだけではだめ。本気になってリーダーシップをとれば、議会を改革できる。
日本人は人前であまり意見を言わないので、市民が出てきてくれるか心配したが、定員以上の応募があった。本当は、議会に言いたいことがある市民がたくさんいた。メディアに取り上げてもらい、初対面の市民から「良いことを始めてくれた」と声をかけられたこともある。
議員になって戸惑ったのは、議員同士が議場で議論しないこと。議員個人の活動も大事だが、一番力を持っているのは議会。みんなで話し合って出した結論には、市長の判断と同じくらい力があるのに、力を放棄していた。議員間の話し合いを深めるようにしたい。
私も改革実現に時間がかかったが、あきらめなかった。フリースピーチ導入など改革したい議会があれば力になりたい。
<犬山市のフリースピーチ制度> 市民が議会壇上から5分間、市制への考えを述べる。18年に始まり、これまでに20人が高齢者介護、観光、道路整備などについて発言。災害時の障害者の避難支援では、発言をきっかけに議会が市長に提言し、制度が見直された。