統一地方選2019

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<議会を身近に 地方自治の先進地から> (上)岐阜県可児市 二元代表制

2019年3月19日

議会報告会は少人数のグループに分かれ、住民が発言しやすいよう心掛ける=2018年11月撮影(岐阜県可児市議会事務局提供

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 初当選し、やる気に燃えて登庁した市議会は、「怠け者の楽園」だった。

 岐阜県可児市の川上文浩市議(58)は、二〇〇七年のことを思い出す。「決算審査がたった一日。民間なら決算はめちゃくちゃ大事なのに」。飲食店を経営する立場から苦笑した。

 変えたいが、何をすればいいのか。川上市議は、当時市内にキャンパスがあった名城大に、旧自治省出身で三重県の財政課長も務めた昇(のぼる)秀樹教授を訪ね、協力を求めた。この出会いが、全国から毎年八十件の視察を迎える「改革先進議会」の始まりだった。

 定数二二だった市議会では、八人が初当選していた。この若手らが毎月一回、昇教授の研究室で、学生とゼミをするようになる。地方議会とは何か、昇教授は基礎の基礎から教えた。

 「二元代表制」。国会は選挙で選ばれた議員の中から首相を選ぶが、地方は議員と首長をそれぞれ選挙で選ぶ有権者の代表そのもの。昇教授は「どちらがより市民の声を反映できるか、競い合わねば」と訴えた。

 当時は、市長が出す予算や条例の議案を追認するだけ。緊張感を持って政策を監視し、市民の思いと違えば、修正しよう。議会からの政策もつくりたい。一期目の四年をかけて、理想像が見えてきた。

 市民に議会がどう見えているかを直視しようと、一期目の終わりにアンケートを実施した。「民意が反映されている」と思う市民は6%。川上市議は「覚悟はしていたけれど、厳しい現実だった」と振り返る。

 二期目に入ると、予算と決算の審議を充実させた。決算審議は、ほぼ一カ月をかけて十回の委員会を重ね、全国でも異例の長さに。市長への提言は全会一致が決まりで、沢野伸議長は「全議員で相当深く話し合わないとできない」と話す。

 こうした姿勢が一二年、全国初のいじめ防止条例につながる。予算審議で、市がいじめを調査する第三者委員会の設置を提示。さらに「委員会が学校や保護者を調査する権限が明確ではない」との意見が出て、権限を明記した条例策定を市に求める付帯決議をした。

 条例制定の過程では大津市で中二いじめ自殺事件が起き、翌年に国がいじめへの対応を定めたいじめ防止対策推進法を制定した際には、先行事例として可児市条例が参考にされた。

 予算と決算の審議が終わると、必ず全議員が参加して住民報告会を開く。意見を出しやすいよう少人数のグループに分け、結果は必ず議会で検討する。一四年には「空き家が増えているので何とかして」との声を受け、市が空き家の持ち主を調査し、行政代執行で撤去しやすくする条例を議員自らつくった。

 昇教授は「決断の速さでは市長に勝てないが、議会は大勢で議論する分、より多様な民意を反映できる」と、市議たちの成長を評価する。

◆改革の原点は三重県議会 06年条例化、今や「形骸化」

 可児市議会は二〇一五年、優れた議会の取り組みを評価するマニフェスト大賞のグランプリに輝く。審査委員長は、元三重県知事の北川正恭さん。提唱する議会改革の原点は、他ならぬ県議会にある。

 北川さんは一九九五年に知事になると、議会の古い体質を批判し、行政改革を進めた。危機感を持った県議会は、決算を不認定とするなど激しく競い合った。北川さん退任後の二〇〇六年には、議会が政策立案する一方、知事の政策を監視することを定めた「議会基本条例」を都道府県で初めてつくった。

 だが、県議会は今の任期の四年間で、改革がほとんど進まなかった。県の政策評価を担う常任委員会では、県側が出した資料にその場限りの意見を言う場面が目立つ。改革を主導してきた三谷哲央県議は「政策評価の仕組みは十分あるが、形骸化している」と認める。

 昇教授は「県議会の改革は難しい面がある」とも指摘する。地方分権改革で、街づくりや子育てなど細かな事務の多くが市町村の担当となり、県は直接住民の生活に関わる仕事が少ない。「市町村議会の方が審議は住民に身近で、声も聞きやすい」という。ただ、可児市の川上市議は「防災やインフラ整備は県の力が重要で、県議会とも連携できるのでは」と考える。

 県議会では「議会改革は票にならない」との本音も聞かれるが、昇教授は強調する。「かつて行政改革も票にならないと言われたが、北川さんは選挙で訴えて知事になった。議会が活性化すれば地域が良くなると住民に分かってもらう努力を諦めてはいけない」

   ◇ 

 統一地方選では、県議選が四月七日に投開票、同二十一日には四日市、鈴鹿、鳥羽市議選と川越、朝日町議選、津市議補選、東員町議補選が投開票される。議員の役割はどこまで有権者に見えているだろう。議会はどこへ向かうべきなのか、改革先進地を訪ねた。

(森耕一、鈴鹿雄大が担当します)

 

統一地方選の日程

前半戦
知事 告示3/21(木)
政令指定市 市長 告示3/24(日)
県議 告示3/29(金)
政令指定市 市議 告示
投開票4/7(日)
後半戦
一般市長、一般市議 告示4/14(日)
町村長、町村議 告示4/16(火)
投開票4/21(日)
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