<県議選激戦区を歩く> (4)下呂市
2019年4月4日
「六期二十四年間の経験を生かすため、この四年間を託してほしい」
県議選が告示された三月二十九日朝。下呂市の街頭で、現職駒田誠が居並ぶ有権者に深々と頭を下げた。
自民県連下呂支部長を務め、同市選挙区で七回目の当選を目指す駒田だが、これまでになく危機感が強い。腹心だった同支部事務局長で元市議長の今井政嘉が「世代交代」を訴え、出馬したからだ。二回連続で駒田の無投票当選が続いてきた無風の選挙区は一転、自民分裂の激戦となった。
党支部で候補を一本化できない場合、県連はいずれも公認はせず、勝ち残った方を自民会派に迎え入れる−。これが、しこりを残さないためのルールだ。駒田、今井とも「自民」の看板は得られないまま、無所属で選挙戦に突入した。
下呂支部関係者によると、二人の間では候補の一本化に向けた話し合いが昨年初めから少なくとも四回はあった。だが、まとまらなかったという。幹部の一人は「一年もあったので一本化できると楽観視していた」と渋い表情を見せる。
多選批判に神経をとがらせる駒田陣営。告示後の街頭演説では、昨年七月の豪雨災害時に国や県などに復旧復興を要望したことに触れた。「自民県連の総務会長を務め、議長経験もある。知事の提案にもしっかり連携していく」。築いた地位と実績を強調し、続投に理解を求める戦術だ。
一方の今井は、市は温泉街を中心に発展してきたものの地域の道路整備が立ち遅れ、停滞感がある、との立場。地元の県議と市議間の情報交換や連携を活発化させるべきだ、と主張する。
出馬を表明した直後の今年二月、三期目を務めていた市議を辞職し、退路を断った。「県と市のパイプをより太くして同じ方向を向いていかないと、市の発展はない」と力を込める。
告示後の演説会では、支持者らを前に「まだまだ五十三歳。発想を変えて、いろいろなことにチャレンジしたい」と、世代交代の意義を説いて回った。
火花を散らす両陣営に商工会関係者は「二人とも商工会員で自民系。どちらかを応援するという色は出しにくい」と戸惑う。従来は自民系候補を応援する形を取ってきた地元観光業界の関係者は「今回は自由投票になるのでは」と話す。
濃飛横断道路の延伸や人口減少の対策…。両候補の主張に大きな違いはない。
駒田だけに推薦状を出した下呂建設業協会の会員企業の幹部も「どちらかを何が何でも当選させたいという雰囲気には欠ける」と漏らす。「どちらに入れても自民党。いっそ、別の対抗馬が出て駒田と今井が一本化していたなら、力の入れ方は違っただろうが…」
三日、駒田は街頭演説でこれまでの経験を改めて強調し「豊かなふるさとづくりに貢献したい」。今井は個人演説会で「夢あるまちを目指して、新しい発想で進みたい」と訴えた。
十二年ぶりとなった論戦は、あと三日間。有権者は、地域の未来をどちらに託すことになるのだろうか。
=敬称略、終わり(統一地方選取材班)