<自治って何> (4)女性の政治参加
2019年3月25日
高山市議を五期続け、初の女性議長も務めた藤江久子さん(66)の一期目の記憶である。
友好都市の親善訪問を「子どもがまだ小さいので」と断ったら、男性のベテラン市議から言われた。「公務なのに行かないのか」
子どもは男女三人。小学生の次女の遠足と三日間の出張が重なったときは、同級生の母親に「娘の弁当も作ってほしい」と頼んだ。母親は快諾してくれたが、出張前日になり、父親が家に怒鳴り込んできた。「市議なら子どもの弁当くらい自分でやれ」
「政治家を目指す女性にとって、他の議員や有権者からの心ない発言に耐えて自信を保つのは並大抵ではない」。多治見市議を二期務め、今期限りで引退する山口真由美さん(44)も実感を交えて語る。
初当選した八年前は、市議会で最年少だった。酒席で市職員に体を触られた。「女のおまえに政治の何が分かる」「二人目を産まないのか」。セクハラ発言は有権者からも浴びた。
体を触られたことは、先輩議員たちと相談して幹部職員に抗議した。泣き寝入りしないで、毅然(きぜん)とした対応をとったことで、その後、役所内でセクハラを受けることはなくなったという。「ハラスメントをなくすには、仲間をつくって訴えていくことが大事」
選挙期間中、街頭や集会所で候補者の声を聞く機会があっても、子育て中の母親は外出しにくい。瑞穂市の子育て支援団体「キッズスクエア瑞穂」の椙浦良子理事長(58)は「だから女性の声は議会に届きにくい」と言う。
椙浦さんが運営する小規模保育所でも、子どもの送迎で見掛けるのは、母親ばかり。議員は多忙だ。男性の育児参加や行政の育児支援が十分でない状況で、女性が議員を務めることは「子育てや家庭を犠牲にした捨て身の取り組みとなる」。
関ケ原町議の田中由紀子さん(61)は「社会に根強い『女性は家事』の意識こそが問題だ。男性との壁を感じているのは、議員に限らず、働く女性全般に言えると思う」と指摘した。
議会の男社会がなかなか変わらないなか、有権者と直接対話して、女性の声を施策に反映させようという動きが広がっている。
可児市議会は二〇一六年に「ママさん議会」を開いた。市が計画する子育て支援施設の活用や、集客に役立てるため、一般の女性たちが議員と話し合って提言をまとめた。
一八年五月にオープンした市子育て健康プラザmano(マーノ)の運営に女性の意見を取り入れた。市議と女性が話し合い、現金自動預払機(ATM)コーナーの設置、施設の飲食店でのアルコール類提供などを実現した。市内の主婦高田綾子さん(39)は「普段、議会と関わることは少ない。いい機会になった」と振り返る。
地域の身近な課題を解決する喜びを多くの女性たちが感じている。ママさん議会を主導した可児市議の川上文浩さん(58)は「女性の議員増につなげたい」と突破口となるのを期待する。
(戎野文菜、野瀬井寛、秋田佐和子、芝野享平、織田龍穂)