<自治って何> (3)合併で地域格差
2019年3月24日
山あいの集落を走る路線バス。高齢者らの大切な足となってきた=大垣市上石津町で |
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「メリハリを付けないと(公共交通網は)維持できない」。昨年十二月、大垣市上石津地区で路線バスの廃止方針についての住民説明会があった。市の担当者は、利用者が減り、運行を委託するバス会社への負担金が重荷となっていることなどを挙げ、効率化への理解を求めた。
廃止が検討されているのは時−大垣駅間三三・七キロの「大垣多良線」。養老町を挟み、市の飛び地になっている上石津と、市中心部を結ぶ唯一の直通バス。なくなると、市役所がある中心部に出るには、バスを何本も乗り継いだり、JR関ケ原駅(関ケ原町)に出て東海道線に乗り換えたりしなければいけない。
「高齢者の生活を考えた案ではない」。住民グループ「上石津の公共交通を考えてみよう」の代表・三輪秀一さん(64)は、市の方針に不安を抱く。市の住民アンケートでも、高齢者が通院目的で利用を希望していた。運賃引き下げや運行本数が増えれば、利用するという回答もあった。だが、結果は路線の見直し案には反映されなかった。
旧上石津町が、旧墨俣町とともに大垣市となったのは二〇〇六年。いずれも市域が離れている「二重飛び地」だ。人口の少ない両町が、福祉の充実や財政力の強化を期待して規模の大きな大垣市との合併を選んだ。
それから十三年、上石津地区では、歴史を生かしたまちづくりが盛んになってきた。関ケ原の戦いで敗れた西軍の島津義弘が、撤退のために命からがら敵中突破した「島津の退(の)き口」の舞台の一つとされる。島津氏にあやかった弁当をつくった。
まちおこしイベントを企画する地元在住のコピーライターで松島頼子さん(59)は心配している。「観光や移住・定住を盛り上げるための住民の活動が、せっかく芽吹いてきたのに、バスがなくなったら大きな影響が出る。市の中心から離れた地域にも目が行き届くようにしてほしい」
(服部桃)
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◆周辺部 人口減進む
県内の「平成の大合併」は2003〜06年に集中し、昭和の終わりに99あった市町村は半分以下の42になった。中でも、行政の最小単位の村は30から2に減った。
合併のメリットは行政の効率化だったが、自治体の規模が大きくなり、それまでのサービスが行き届かなくなったとの声も少なくない。
地方自治に詳しい名城大の昇秀樹教授は「旧市町村単位で住民の意見を反映させる地域自治区のような仕組みを導入する自治体もほとんどなく、行政の責任は重い」と指摘。「合併で地方議員の数が減ったが、住民の声をきめ細かく拾うための議員自身の努力も足りない」と話す。
OKB総研によると、平成の大合併で誕生した17市町のうち、旧町村の周辺部の人口減少率が中心部の旧市域より高いのは、12市町に上る。中村紘子主任研究員は「若い世代が『職住学医』(職場、住居、学校、病院)が近接する中心部に移る流れが強まっている」と分析する。
(近藤統義)