静岡市長選検証(下) くすぶる病院移転の是非
2019年4月11日
静岡市長選で移転の是非が問われた桜ケ丘病院=静岡市清水区桜が丘で |
静岡市長選の鍵を握ったのは旧清水市(清水区)だった。合併で旧静岡市にのみ込まれたとの思いから、現市政に不満が根強い。過去の市長選でも勝敗を左右する大票田となってきた。
加えて今回は、桜ケ丘病院(同区)の移転計画が主な争点に浮上した。天野進吾さん(77)ら新人二人は市が進める移転計画を徹頭徹尾、批判した。
当選確実が伝わった七日夜、支援者らが歓喜に沸く中で、報道陣から計画を変更する考えを問われた田辺信宏さん(57)は明言した。「ありません。当選した責任がありますから」
計画が表面化したのは二〇一五年ごろだ。桜ケ丘病院は清水港から二キロ近く離れた海抜八メートルほどの比較的高台にあり、市は災害時に重症患者らを運ぶ救護病院に指定している。築六十年と老朽化し、運営する「地域医療機能推進機構」(JCHO)と市は、交通の利便性などから移転を前提に協議を始めた。
近くの高台にある公園と、同じく移転計画が進む市役所清水庁舎の土地が候補に挙がり、市は庁舎の跡地を優先候補としてJCHOに提案。一七年三月、庁舎跡地への移転が正式に決まった。
構想から二年ほどでの決定は、庁舎が想定津波浸水域に立地することもあり、物議を醸した。地元住民は「説明不足」「結論ありきだ」と反発。川勝平太知事も「浸水域に病院を移すという暴挙を許してはならない」と反対を鮮明にした。
市長選の告示後、「想定津波浸水域に移転・開設」した病院は救護病院の指定要件から外すとする県の方針を打ち出すなど、天野さんへのあからさまな“援護射撃”も繰り出した。
移転凍結を訴えた天野さんら新人二人の票を足せば田辺さんを上回る。自民から除名され、組織も、支持母体も持たない天野さんは知事との蜜月を強調し、田辺さんに三万票差近くまで迫った。清水区の得票率は3ポイント差まで猛追した。
現病院が立つ岡地区の連合自治会は天野さんを推薦した。小林靖明会長(74)は「なぜ移転か、田辺さんは理由を説明してくれない。批判票が上回ったことを真摯(しんし)に受け止めて、結論ありきの姿勢を変えてほしい」と憤る。
投開票から一夜明け、川勝知事は五箇条の御誓文にある「万機公論に決すべし」を引用し、世論に耳を傾け、意思決定を透明化するよう、新市長に求めた。
同じ日、田辺さんは「清水駅の周辺に公共施設や病院、商業施設を集積し、高齢社会に対応するまちづくりを進める。JCHOは災害に強い病院づくりの実績がある」と移転の真意を述べた。「説明したつもりだったが、伝わっていなかった。説明不足だった」と反省の言葉も口にした。
(広田和也、西田直晃、瀬田貴嗣が担当しました)