七日投開票の統一地方選の前半戦。浜松、静岡両市長選では、いずれも無所属現職の鈴木康友さん（６１）、田辺信宏さん（５７）＝自民党推薦＝が再び市政のかじ取り役を託された。浜松市の行政区再編では、鈴木さんが進める三区案に「反対」との民意が示され、県議や市議の顔ぶれが決まった。

　午後八時、四選を果たした鈴木さんは浜松市中区のグランドホテル浜松で支援者と喜びを分かち合ったが、「住民投票の結果が気になりますね」と素直に喜べない様子。行政区再編の賛否を問う住民投票の行方を気にしていた。

　選挙戦では区再編を最大の争点に掲げたが「八十万人全員に説明したかったが、時間が足りなかった」と振り返った。「行政サービスが低下するなど、まだまだ誤解している人が多く、丁寧な説明が必要になる」と強調。「（三区案はともかく）基本的に区再編自体への賛成が多いことを期待したい。しっかり分析して、議会と調整する」と実現に強いこだわりを見せた。

　四期目については「知恵を出し、汗をかいて出してきた成果を四期目につなげ、全力で市政運営に取り組んでいく。信念を曲げずに行政区再編を実現させる」と決意表明。「平成から令和の新しい時代を迎え人口減少の時代に突入する。その中でも元気な地域をつくり、持続可能な市政運営をしていく」と述べた。

　選挙戦では、公務の合間を縫って市内全域を回って遊説し、ほぼ毎晩、個人演説会を開いた。松下政経塾出身の強みを生かし、同期の自民党国会議員を応援弁士に呼び、政権とのパイプを強調。地元経済界や労組の支援も受け、市議や県議とも連携して戦った。

　鈴木さんは「区再編を争点に市内を駆け回った。賛成の人ばかりではなく、厳しい言葉も受けたが、信念を持って訴え続けた」と選挙戦を振り返った。

　無所属新人の山本遼太郎さん（３２）＝自民党県連推薦＝は、鈴木さんの当確が報じられた二十分後に浜松市中区の百貨店「松菱」跡地にある事務所に現れた。「私の力不足。思いをもっと伝えられた部分はあったかもしれない」と涙を拭いながら敗戦の弁を述べた。

　選挙戦では、若さをアピールし、市役所移転を含む中心市街地活性化を中心に訴えた。自民党県連の支援を受けて、精力的に市内全域を街宣。終盤に鈴木さんを激しく追ったが、知名度不足もあり及ばなかった。

　「厳しい選挙だったが、手応えはあった。中心市街地がこのままでいいと思わない人も少なくなかった。行政区再編も考える機会をつくれ、一つやり切ることができた」と強調した。

　無所属新人で共産党推薦の野沢正司さん（６９）は浜松市中区の事務所で速報を見守った。敗戦の弁で、区役所の統廃合などについて「不安の声があったが力不足だった」と語った。

　終盤は、東区や中区を中心に遊説。「立候補の表明が急だった」と反省。鈴木さんに、上水道事業へのコンセッション（公設民営）方式導入の検討を「反対を求める声が多かった。ぜひ断念してもらいたい」と求めた。

【解説】浜松市民は市政刷新より、現市政の継続を選んだ。鈴木康友さんは行財政改革をはじめ、企業誘致や防災対策などを進めてきた。幅広い施策が評価されたといえる。

　行政区再編を問う住民投票は三区案反対が過半数で、現行七区の維持を求める声も半数に迫った。鈴木さんは区再編の推進に向けて議論の再開を議会に求めるとみられる。だが市長選で大勝しながら、住民投票ではそうならなかった結果を重く受け止めるべきだろう。市民から「住民投票の設問が分かりにくい」との声もあり、こうした設定にした議会側にも責任がある。

　鈴木さんは三区案に固執しておらず「住民投票に持ち込めば何とかなる」という思惑だったとみられる。市長選の最大公約として訴え続けたが、行政サービスの低下に対する市民の不安は解消できていない。

　市議選の結果、改選後の市議会は、市長選で戦った自民が引き続き最大会派となる。鈴木さんが「厳しい行政運営が待ち構えている」と語った通り、まずは議会対策が最大の課題となる。議会で理解者を増やす努力が不可欠で、自民会派との向き合い方も鍵を握る。

（報道部・原一文）