人口減少など課題が山積する政令市をどう活気づけていくのか。二十四日に告示された浜松、静岡市長選。まちに飛び出した各候補は、それぞれ重視する取り組みを各地で訴えた。「行政の無駄を省いて」「街の空洞化を何とかして」。有権者は思いを込めた一票を投じる先を見極めようと、じっと耳を傾けた。

　浜松市長選に立候補した現職の鈴木康友さん（６１）、新人の野沢正司さん（６９）と山本遼太郎さん（３２）は有権者に何を強く訴えたのか。主な演説で、どんな課題に時間を割いたか分析した。

　「柔軟で効率的な組織運営を行う。これが区の再編の狙いだ」

　寒風の吹くＪＲ浜松駅北口で、鈴木さんは第一声の半分以上を行政区再編に割いた。浜北区と天竜区を残し、その他を合区する三区案に触れ「七億円の財源が捻出（ねんしゅつ）でき、高校生の医療費無償化など財政需要に対応できる。将来の浜松のために盤石の基盤をつくりたい」と力強く語った。

　三区案に反対する山本さんは「案では人口比がアンバランス」と指摘。七億円削減の効果について、市民がその分の利益を得られなくなるだけだとする。七区維持を掲げる野沢さんは「市民が要望したことではない。（区ごとのコミュニティーを崩す）庶民いじめ」と訴えた。

　野沢さんが浜松駅北口での街頭演説で重点を置いたのは、上水道事業を巡る問題だ。事業の運営権を民間企業に委託するコンセッション方式の導入可否について「命の水を外国企業に任せるのはやめる」と強調。「市内の業者に落ちる大半の利益が、外国企業に持って行かれる」と批判した。

　山本さんも、事業の導入は「言語道断」と立ち位置を明確にし「先人が努力して守り抜いてきた技術やノウハウを売り渡してはならない」と語気を強めた。

　鈴木さんは検討自体を棚上げにしており、第一声でも言及しなかった。

　山本さんは午後に中区の事務所前で開いた出陣式で、公約の中心市街地活性化ではなく、市政改革に最も時間を割いた。三期十二年の鈴木市政を踏まえ「浜松には閉塞（へいそく）感がある。市政運営は一部の力ある企業、力ある人たちのものではない」と現状からの脱却を訴えた。自身は長男が生まれたばかりといい「息子の将来の友達、彼女、家族の世代のことを考えたら、戦って浜松を変えていかなければならない」と出馬を決意した思いも語った。

　野沢さんは「県内の最低賃金時給をすぐに千円に上げ、正社員が当たり前の雇用体制に変えたい」と主張。「保育所や学童保育所を増設し、安心して産み育てられ、働き、老後を迎えられる福祉の行き届いた浜松に切り替えていく」と続けた。大企業への補助金を見直す方針も打ち出した。

　刷新を訴える新人二人に対し、鈴木さんは実績をアピール。「改革に着手して第三セクターを解散し、そのビルを買ってもらって遠鉄（百貨店）さんの新館が建った。旭・板屋地区の再開発は順調。リノベーションという手法で空き店舗や空きビルを丁寧に再生していく」と中心市街地の活性化へ向けた意欲を語った。

　３候補がいずれも第一声を上げた中心部。ＪＲ浜松駅前で、ある候補者の演説を聴いた会社員風間諒平（りょうへい）さん（３２）＝中区＝は、区再編に関心があるようだ。「区民という意識は薄い。市全体の無駄を省いて効率化を図った方が良い」と推進を期待する。一方、駅近くを散歩中だった無職井口勝巳さん（６９）＝同区＝は「いくらメリットを聞いても納得できない。サービスが減るとしか思えない」と懸念した。

　駅前に買い物に来ていた主婦杉浦智恵さん（６３）＝北区＝が候補者の訴えで注目するのは街のにぎわいについて。「にぎわっていた街が、今は寂しい。市街地の空洞化を何とかして」

　天竜区佐久間町でイベントに参加していた地元の無職森下智夫さん（８０）は「過疎を何とかしてほしい」と話した。道路整備や通勤アクセスの改善など山間地対策を各候補に求めた。

　選挙カーの呼び掛けで市長選の告示を知ったというパート今原裕美さん（４０）＝中区＝は「若い世代にお金を使ってほしい」と望む。小学生の息子がおり、「働くお母さんの環境を整えてほしい」と訴えた。

　同じく子育て中の主婦杉原久子さん（２８）＝同区＝も「子育てや出産への支援策の充実を求めたい」と話した。

　市が検討した上水道事業でのコンセッション方式導入への姿勢を重視する人も。浜名湖ガーデンパーク（西区）のイベントに来ていた主婦白川佐知子さん（６９）＝中区＝は「水は生活の基本。今後の方針を分かりやすく説明してほしい」と注文した。