はままつの深層(下) 事故多発 クルマ社会
2019年3月22日
◆公共交通の定着 道険し
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車が行き交う大通りや朝夕の渋滞。「クルマ社会」ならではの光景が日常的な浜松市では、交通事故の多さが際立つ。背景には公共交通機関の不足が挙がる。
本紙の集計で、浜松市は二〇一八年の人口十万人当たりの人身事故件数が九百五十三件。全国二十政令市のうち、十年連続でワーストとなる。市や県警は取り締まりや広報活動を強化しているが、厳しい現実が続く。ワースト2は静岡市の七百二十六件、次いで北九州市の七百三件。
浜松市の人身事故はなぜ多いのか。市と公益財団法人「交通事故総合分析センター」(東京)は「自動車利用の割合や高齢者の免許保有率が高く、公共交通機関の整備が遅れている」と指摘する。
市によると、外出する際に公共交通を利用した人の割合はわずか4・4%で、政令市で最も低い。市は三〇年までに5・5%に増やす目標を市総合交通計画に掲げ、自動車から公共交通への転換を目指して事故削減を狙うが、遠州鉄道関係者は「そこまでの具体性が見えない」と冷ややかだ。
市内の公共交通は、路線バスの撤退が目立つ。
市によると、路線バスの利用者は一九七五年時点で年間約七千七百万人だったが、二〇一五年には三分の一の約二千五百万人にまで減少。一九八七年に市営バスが廃止となって以降、市民の足を中心的に支える遠鉄のバス路線は、現状では採算が合っていない。運転手の確保も難しくなった。 遠鉄の小野田剛久運輸事業本部長は「大型路線バスは機能と需要が離れている」と話し、小型のバスに移行していく必要性を訴える。
今年九月末には、遠鉄が市北部で運行する三つのバス路線から撤退する。市は、代替策として中型バスや事前予約制のワゴン車などを導入する方針。市が遠鉄グループに運営を委託し、北区引佐町をエリアとする小型地域バス「いなさみどりバス」にICT(情報通信技術)を導入。希望する時間や場所での送迎を可能とし、利用を三倍に増やした。地元の九十歳女性は「ほかに出掛ける方法がない」と話し、買い物や通院で週に三、四回利用している。
路線バスは市中心部でも深刻だ。JR浜松駅を中心に放射状に路線が延びるが、東西を結ぶ環状路線は遠鉄が運行する一路線しかない。環状路線バス構想の一部として東区で実証運行した天竜川イオン市野線は利用者が増えず、一四年に廃止した。市が遠鉄に運行を委託する中心市街地を走る循環まちバス「く・る・る」も三月末で廃止となる。
小野田本部長は「朝夕に通勤通学で利用する一定のニーズがないと、維持は難しい」とする。市は「新規路線の開拓は困難」「必要性も含めて再検討」として打開策を見いだせないでいる。市は民間事業者とともに、八十万人都市にふさわしい交通対策に取り組むことが求められている。
(篠塚辰徳、松島京太が担当しました)