県都のいま 2019静岡市長選(下)
2019年3月20日
◆集約6拠点 実現遠く
家族連れや買い物客でにぎわうJR静岡駅周辺の市街地=静岡市葵区で |
東日本大震災後、公共、商業施設や住宅地を集約させる「コンパクトシティ」化が全国で進む。脱車社会や行政サービスの効率化、社会資本の有効活用など、人口減少社会を乗り越える鍵の言葉が浮かぶ。
若者の流出や人口減に悩む静岡市は急速な高齢化に直面している。昨年末現在の高齢化率は十五年前の合併時から10ポイント強アップし30・1%。広大な中山間地を抱え、人口密度は低い。二十政令指定都市のなかで人口は最下位、高齢化率は北九州市と、人口密度の低さで浜松市とトップを争う。市はコンパクトシティ化こそ生きる道と位置付ける。
二〇一六年度、静岡駅、清水駅、東静岡駅、草薙駅、安倍川駅、駿河区役所周辺の六地区を「集約化拠点形成区域」に指定した。六拠点の一〜二キロ圏内に役所や商業施設、学校、病院、歴史・文化施設などを集約させるコンパクトシティ構想だ。
完成したと言える拠点はまだない。静岡商工会議所の調査によると、徳川家康が築いた駿府の城下町を基盤とする静岡駅周辺の歩行者はこの五年で5%、一日二万人弱減った。清水周辺は大震災後、津波被害が危惧され、地価は下げ止まっている。
市の担当者は「清水は港町で栄えた歴史があり、清水のまちづくりで海沿いは外せない」と説明するが、川勝平太知事がことあるごとに庁舎や病院の移転計画を批判するなど、市の構想が前進しない象徴的な存在と化している。
津波以外にも、土砂災害や洪水などの災害に備えた防災計画を、市は六地区とも策定していない。愛知大地域政策学センター長の鈴木誠教授は「通勤や通学で多くの人を集めることを想定する以上、エリアごとでの災害対策は必須」と指摘する。
六拠点への集中整備は「ハコモノ行政への回帰」との批判や、中山間地の空洞化をさらに加速させるとの懸念もある。
「子育てに不安を感じている」。一三年に掛川市から山間部の葵区井川地区に移住した遠藤基さん(40)は漏らす。三年前に子どもを授かった。自然あふれる環境で子育てする喜びと同時に、同年代の子は地区に数人しかいない現実。
井川地区の人口は半世紀前の二千四百人から、昨夏時点で四百八十一人にまで落ち込んだ。市は、恵まれた風景や食材を売りに、葵区と清水区の中山間地を「オクシズ」としてブランド化し、移住者の誘致や観光振興をもくろむ。
ただ、一例を挙げれば、今や市民生活に欠かせない社会資本「インターネットの光ファイバー回線網(ブロードバンド)」の整備は膨大な費用がかかるため着手できていない。
鈴木教授は「コンパクトシティ化で、郊外の空洞化は免れない。新たな地場産業や六次産業化など、中山間地振興にもバランスを取った施策を進めるべきだ」と強調するが、あぶ蜂取らずに陥る可能性もある。
(広田和也、瀬田貴嗣が担当しました)