無風一転 2019静岡市長選(下) 現職と知事 溝深く
2019年3月1日
市長選に向けた事務所開きで、支援者らと握手を交わす田辺市長(左)=2月23日、静岡市葵区で |
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共産党が推薦を検討する林克(かつし)氏(63)と県議の天野進吾氏(77)が出馬を表明した二月二十五日。田辺信宏市長(57)は報道陣に「現市政に対する不満があることは厳しく承知している。謙虚に受け止めたい」と語った。
この日、林、天野両氏が三選を目指す現職を批判するのは当然として、より舌鋒(ぜっぽう)鋭かったのは川勝平太知事(70)。「現市長は聞く耳を持たず、市民の不満や恨み、怒りが年を追うごとに大きくなっていった」
川勝氏と田辺氏はともに早稲田大政治経済学部卒。田辺氏が市長に初当選した二〇一一年、川勝氏は「川勝が田辺君の軍師(参謀役)になる」と後輩を持ち上げた。
二人の蜜月が過ぎ去ったのは一四年。県、市が目指した主要国首脳会議(サミット)の誘致で、田辺氏は県に説明なく、誘致を断念する意向を外務省に伝えた。川勝氏は慌てて火消しに走ったが、結局、会場は伊勢志摩(三重県)に決まった。
一五年に会談した際には、川勝氏に「君(きみ)」と呼ばれた田辺氏が「君というが、市長だ」と気色ばんだ。以後、県都構想やリニア中央新幹線の水対策、病院の移転問題などで、川勝氏は、はばかりなく田辺氏を批判する。
天野氏は二十五日の朝一番で、川勝氏に会い、出馬の決断を伝えた。関係者によると知事は大喜びし、報道陣に「(天野氏は)市を愛している。市政を担うことになれば県、市の関係ができる」と語った。川勝氏は、どの陣営も支持しない「ノーサイド」を強調するが、県都の攻防は川勝氏と田辺氏の代理戦争の様相も呈する。
現職と新人の戦いは現市政の評価が争点になる。田辺氏を推薦する自民党の市議団幹部は「取り組んできた政策の芽がまだ出ていない。結果が見えていないから批判が多いのかもしれない」と同情する。
田辺氏の一期目は、合併特例債などで焦げついた財政の立て直しに終始。二期目に歴史や海洋文化施設の建設など「五大構想」をぶち上げたが、まだ完成したものはない。
五大構想を中心とする箱モノの大半は自民からの要望に応える形で、予算付けした。旧知の市議は「彼は学生時代から政治家を目指して努力してきたが、市長に当選後は自民党が求める施策ばかり」と語る。
松下政経塾出身の田辺氏は県議からの転身を狙った〇三年、〇五年の衆院選に無所属で出馬し、落選。一一年の市長選を大接戦の末に制した後、周辺に漏らした。「もう浪人には戻りたくない」
(静岡市長選取材班)