無風一転 2019静岡市長選(上) 副知事辞退 思惑外れ
2019年2月28日
県庁で急きょ会見し、静岡市長選への出馬を表明した天野進吾氏(中)=25日 |
「決めたよ。出ます」
県議の天野進吾氏(77)は二十五日早朝から、同僚や支援者らに相次ぎ電話し、自らの決意を伝えた。
七十七歳での静岡市長選への出馬。午後には急きょ設けた会見で、天野氏は「逃げられないという心境になった。大衆と言われる皆さんと手を取り合って(選挙に臨む)」と述べた。
一九八七年から、採石業者との癒着などが発覚し任期途中で辞任する九四年まで、旧清水市と合併する前の静岡市長を務めた。
現職の田辺信宏市長(57)は、天野氏が市長だった九一年に市議に初当選。「まじめな青年だった。一般質問もまじめ」と振り返るが、田辺氏の市長就任後、評価は反転する。
工場跡地の取得やふるさと納税の推進など、助言した施策がことごとく聞き入れられなかったことが不仲の端緒とされる。
昨夏から、市民団体や同僚議員とともに、田辺氏の対抗馬として副知事の擁立に動いた。説得しきれず、副知事は二月上旬に出馬を断念した。
「反田辺」で拳を振り上げた市民団体などから促され、「正直、出ざるを得なくなった」と天野氏に近い市議は語る。
副知事出馬を待望した旧清水関係者の現市政に対する不満は根深い。造船業が衰退し、人口減少が止まらない。社会インフラ整備が進まず、病院や庁舎の移転問題などに地元の声が反映されないと嘆く。
待望論は必ずしも天野氏につながらない。清水の政財界関係者は「(副知事のように)国とのパイプがあるとは思えない」「お金を巡る疑惑で市長を辞めているし、清水のことも全く知らないイメージ」と指摘する。
田辺氏の推薦を決めた自民党の県連は、天野氏の出馬表明を「反党行為」とみなし、除名処分も検討している。
天野氏と同じ二十五日午後、共産党が推薦を検討する元県労働組合評議会議長、林克(かつし)氏(63)も出馬を表明した。共産も副知事出馬への期待から出遅れた。
関係者によると、会見直前、天野氏の周辺から会見の中止要請があった。林陣営は「自民色の強い天野氏には乗れない」と断った。
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四月七日に投開票される静岡市長選は二人が立候補を表明し、三つどもえの構図が固まった。無投票の可能性もささやかれたが、一転、風は吹くのか。出馬する三者の背景を探る。
(静岡市長選取材班)