<源流の政 木祖村議選> (8)票は開いた
2019年4月22日
長野県木祖村議選は21日投開票され、当選者10人が決まった。12人が立候補していた。投票率は82.39%で、4年前の前回から2.54ポイント低下した。
キン、コン、カン、コーン。
21日午後9時20分、やみに包まれた長野県木祖村にチャイムが鳴り響いた。村の広報無線。村議選の当選者10人の名前を得票順に担当者が読み上げた。
トップ当選は元郵便局長の新人、田中寛幸(66)。
告示直前に右足を骨折し、松葉づえをつきながら選挙を戦った。この日、自宅で結果を待つ間は「怖くて震えてきそうだ」と不安を隠さなかった。当選を知ると、松葉づえを使わずに座椅子から立ち上がり、ガッツポーズ。集まった仲間と握手を繰り返した。
告示5日前、選挙運動の打ち合わせ中にトイレに行きたくなり、戸外に出たところ、足を滑らせ沢に転落。計画していた自転車遊説はできなくなったが、村の郵便局に40年勤めた顔の広さが効いた。
「選挙前に一度落ちて良かったのかもしれない。もうこれ以上落ちないと自分に言い聞かせました」
同じく新人の安原千佳世(66)も当選し、ほっとした表情を見せた。一橋大卒で、スーパー「バロー」取締役などを務めたUターン組。高校進学以降、長く故郷を離れていたために知名度不足を心配したが、小中学校時代の同級生らに支えられた。「人を呼び戻す施策を考えていきたい」と意気込んだ。
女性候補は3人中2人が当選。深沢衿子(63)は女性最上位の5位で7選を果たした。この日も選挙ポスターと同じ緑色のエプロン姿。家族と一緒に自宅のこたつで、吉報を待った。室内にある村の広報無線の受信機から自分の名前が流れると、涙が出た。
自己最多得票。「お母さん、おばあちゃんの代表として女性の声をしっかり議会に伝えます」と誓った。
菅地区唯一の候補である現職の栗屋正一(69)は2位当選。地元票を手堅くまとめた。近所の集会所に集まった約40人の支援者と万歳三唱をした。
街頭演説では、据え置き型スピーカーを山の斜面に向けて声を反響させる「やまびこ作戦」で、自らを売り込んだ。「私の声をみんな聞いてくれたよう。木曽川を中心とする村の田園風景を守る施策に取り組みたい」と抱負を語った。
一方の有権者たち。一票にどんな思いを託したのか。
共働きという30代夫婦は午前8時半に投票を済ませた。夫は「若い人が集える場所づくりに取り組んでくれそうな人」を選んだ。妻も同様の願いを込めた。「人も仕事も増えるような村にしてほしい。若い人の間でキャンプがはやっているので、村のキャンプ場を充実させてほしい」
1989年に約4000人だった人口は、今年4月には2800人余になった。平成の間に3割減ったことになる。小木曽地区に住む70代農業男性は「農林業を大事にしてくれないと村が滅びちまう。もっと力を入れてほしい」と訴えた。
2期務めながら、月額15万円の議員報酬では家族を養えないと村議引退を決めた岩原大輔(36)の不出馬を嘆く80代女性もいた。「本当は彼に入れたかった。一生懸命な若者が議員を続けられる仕組みを考えてほしい」
(文中敬称略)
明日が最終回です。