統一地方選2019

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<源流の政 木祖村議選> (1)議員引退の決断

2019年4月9日

次の村議選に出馬せず、議員をやめることを決めた岩原大輔さん(右)=長野県木祖村議会で

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 長野県木祖村役場の三階。村議会副議長の岩原大輔(36)=二期目=が議場の入り口付近で、議長の田上康男(73)=三期目=の姿を見つけ、駆け寄った。定例会の最終日、三月十九日の午前八時半ごろのことだ。

 開会まで時間があり、他の議員は周囲にいない。岩原は神妙に切り出した。

 「次の選挙には、立候補できないです」

 四月十六日告示、二十一日投開票の村議選には出馬しない−。岩原はその決断を、若い自分に期待して副議長にも抜てきしてくれた田上にまず、伝えたのだ。

 岩原は十人の議員の中で最年少。ただ一人、還暦を過ぎていない。田上は三期を区切りに自身の引退を決めていたが、後を託すつもりだった若きホープの告白に言葉を失った。

 岩原は兼業議員。カヌー教室や山歩きなどを主催し、木曽川最上流の村の自然を楽しんでもらうNPO法人「木曽川・水の始発駅」に初当選前から勤める。議員だけでなくNPOも辞め新たな仕事を探すという。議員報酬を含む今の収入では妻(40)と五歳、三歳の子を養うのは難しいからだ。

 現在の月収は合わせて約三十万円で、議員報酬とNPOの給与が半々。NPOは、木曽川の恩恵を受ける愛知、岐阜、三重県や名古屋市などでつくる団体から数年間、年百万円を超す助成金をもらってきたが、この三月で受領期間が終わった。ただ一人の常勤職員である岩原の給料削減は、避けられなくなった。

 十五万円の議員報酬も、定期昇給があるわけではない。副議長職の上乗せは月一万六千円。議員向け年金制度もない。長野県議なら、活動経費に充てる月額約三十万円の政務活動費が報酬とは別に支給されるが、村議には縁がない。政策を学ぶ研修会への参加も活動報告のチラシ配布も、ほとんどが自己負担になる。

 初当選翌年に結婚し、村内の中古住宅を買った時のことは忘れられない。金融機関でローンを組もうとしたら、「四年ごとに選挙がありますし」と言われ、NPOの給料分しか貸してもらえなかった。村議の報酬は「安定収入」とみなされないのか…。

 生まれ育った木祖村。愛知大卒業後、名古屋で三年ほど勤め、「故郷で働きたい」と過疎の村に戻った。村を含む木曽郡のケーブルテレビ局勤務を経てNPOに移り、当時の理事長に「村のことをもっと知ることができる」と背中を押され、村議選に出た。その決断も、独身だったからこそできたと今は思える。二人の子の教育費はこれからかさむ。議員を辞め、安定した仕事を探すとしたら、三十代の今しかない。

 二人きりの議場で、ぼうぜんとしていた議長の田上がようやく口を開いた。

 「後釜は、いるのか」

 代わりに選挙に出る人を見つけたのか、という問いだが、岩原は「それは難しいです」と答えた。

 家族を養えないと議員バッジを外す自分が、同世代の仲間に「選挙に出てくれ」と頼めるはずがなかった。

 (文中敬称略)

     ◇

 名古屋を中心に栄える濃尾平野に、恵みをもたらし続ける木曽川。最上流の長野県木祖村でも、統一地方選の後半に村議選が行われる。人々はどんなことに悩み、政治に何を託そうとしているのか。源流の地の選挙を見つめる。

 (この連載は浅井俊典が担当します)

 <長野県木祖村> 4月1日時点の人口は2877人。面積の87%を山林が占める。木曽川の源流があり、木曽川の祖という意味から「木祖村」と名付けられた。村内にある味噌川ダムは木曽川下流域の水がめ。下流の自治体との交流に積極的で、名古屋市に村の出張所がある。村の中心地は藪原で、江戸時代には中山道の宿場町として栄えた。「お六櫛(ぐし)」と呼ばれる木櫛づくりが伝統産業。

 

統一地方選の日程

前半戦
知事 告示3/21(木)
政令指定市 市長 告示3/24(日)
県議 告示3/29(金)
政令指定市 市議 告示
投開票4/7(日)
後半戦
一般市長、一般市議 告示4/14(日)
町村長、町村議 告示4/16(火)
投開票4/21(日)
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