選挙権の壁 悩む外国人 県内に住み、納税…国籍だけない
2019年4月3日
「思いを伝える権利すらないのは悲しい」と語る高禎蓮さん=石川県輪島市で(関俊彦撮影) |
「地域へ思い届けたいのに」
人手不足を背景に、外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が一日施行された。一部は将来的な永住も事実上可能となるが、国は永住外国人への参政権(選挙権)を認めていない。「地域を支える一員として地方選挙で一票を投じたい」−。石川県内で暮らす外国人の中には、そんな思いを胸に今回の選挙を見つめる人がいる。(統一地方選取材班)
「納税しているのに、投票できないのをいつも疑問に思う。思いを伝える権利がないのは悲しい」
二十四年前に来日し、輪島市内で輪島塗の制作集団「彦十蒔絵(ひこじゅうまきえ)」の営業に携わる台湾人の高禎蓮さん(44)はそう話す。今回の県議選で輪島市選挙区は無投票となったが、選挙戦となっても投票はできなかった。後半戦にある市議選でも投票できない。
高さんは観光ビジネスを学ぶため、金城短大(白山市)に留学。夫と知り合い、輪島市に移住した。漆器関係の仕事をしながら二人の子にも恵まれた。
日本国憲法で選挙権は「国民固有の権利」と定められ、日本国籍を所持していなければならない。
国籍取得にはいくつかの条件が必要となる。観光関係の会社を営んでいた高さんは当時、法務局から「自営業では収入に不安がある」と難色を示された。居住や素行など他の条件はそろっていた。諦めて永住権を取得したが、「家族と同じことができないだけで、離れ離れに感じることもある」と言葉を詰まらせる。
「地域のことに一票で声を届けたい」と話す荒木クリスティさん=金沢市で(本安幸則撮影) |
英国出身の荒木クリスティさん(39)は配偶者ビザを取得し、宝達志水町で家族と暮らす。「国政選挙はともかく、地方では私たちにも投票する権利はあると思う」と訴える。
英国で大学を卒業後、二〇〇三年から白山市の国際交流員として勤務。〇八年に県内の男性と結婚し、現在は金沢市と名古屋市で母国仕込みのカップケーキを製造販売する店舗を経営する。三人の子どもを持つ母親でもある。
税を納め、土地も購入した。国籍だけがない。「子どもが通う学校や図書館などに税金がどう使われ、どういう地域になっていくのか関心があるし、思いを届けたい」と願う。
識者「まず対話集会から」
永住者の声反映 投票権には賛否
今後増えるであろう永住外国人らの声を政治にどう反映させていくか、大きな課題だ。名古屋外国語大グローバル共生社会研究所長の高瀬淳一教授は「声を届ける取り組みを段階的に進めるのがいいのではないか」と考える。
「すべての永住者に投票権を与えるのには賛否がある」と高瀬教授。そのため、まず第一歩として、自治体や議会が永住外国人らとの対話集会を開くことを提案する。その後、各種審議会などへの参加を勧め、理解を深めていくことが求められるという。
一方、自治体が重要施策などの賛否を問う住民投票は、条例で永住者の参加を認めることもできる。県内では宝達志水町が二〇〇五年、条例を制定している。
石川県内の外国人 県によると、県内の外国人住民数は2018年末で1万5206人。前年同期比で1610人増え、過去最多となった。在留資格別では技能実習が5247人で最も多く、次いで永住者の2806人。18年末の県人口は114万5906人で、外国人住民は全体の1・3%。