<改革いずこへ 4・7名古屋市議選> (下)議員報酬
2019年3月23日
市民の代表である市議会議員に年額いくらの報酬を支払うべきか。「庶民革命」を掲げる河村たかし市長が就任してからの十年、この議論は幾度も繰り返されてきた。
従来の千六百三十三万円から二〇一一年に一度は八百万円に引き下げられたが、主要三会派(自民、民主、公明)が一六年に千四百五十五万円に引き上げた。今月十五日、議会はさらに四年間は千四百五十五万円を継続する議案を可決。河村市長は議場でぶぜんとした表情を浮かべ、「お手盛りだ」と声を荒らげた。
「市民並み」を訴えて一一年の市議選で自身が率いる「減税日本」を一躍最大会派にした河村市長に対し、自民ベテラン議員は「報酬という、政策論争とは別の安直な手法で市民に訴えかけた」。河村市長の政治手腕による「武器の一つ」と冷ややかに見る。
千六百三十三万円は政令市でもトップクラスの額。八百万円は断トツで低いとはいえ、国税庁の調査では民間の平均給与は約四百三十万円。実像が見えにくい議員の仕事に対し、「高すぎる」と批判すれば共感を呼ぶのは必然だった。
だが、八百万円時代を経験した議員たちは当時の苦境を嘆く。ある民主ベテラン議員は「政治活動はすればするだけ金がかかる」と強調する。月五十万円の報酬から税金や政治活動の経費を除くと、手元に残るのは十七万円ほど。休日はほとんどなく、四年に一度は数百万円単位で金のかかる選挙がある。地域の会合で飲食せず、あいさつだけして帰るなどやりくりした。
別の中堅議員も「貯金を切り崩していたが、忘年会や新年会の時期は完全に赤字。子どもの学費が必要ならとても無理だった」。河村市長は寄付金で政治活動をするべきだとの考えだが、経験も人脈もない若手には厳しい。自民若手議員は「票を無心した上、金も無心するのかと思われる」。
一方、八百万円を貫く減税の若手議員は印刷物は業者に頼らず自ら作成し、昼食は家から持参。事務員は雇わず、事務所の留守番はボランティアに頼んだり、電話を自らの携帯に転送したりして対応する。「やり方次第で八百万円でも十分。市民目線を忘れないことが大切」と強調する。
自民のベテラン議員は「この議論は政争の具になっているだけ」と断じる。市長は議会から求められても第三者機関への適正額の諮問をせず、議会は市民の声を聞く機会を設けない。適正額の議論がされないまま、両者の言い分は平行線をたどってきた。
河村市長は市議選の争点に議員報酬問題を掲げる。ただ減税旋風を巻き起こし、八百万円への引き下げを後押しした民意のうねりは今や過去の話。選挙戦を前に、何人もの議員が安堵(あんど)のため息をついた。「今回の議会で報酬問題は盛り上がらなかったね」
(この連載は垣見洋樹、谷悠己、中山梓が担当しました)