ボートレースで最初に勝つのは主催施行者(自治体や傘下の企業体)だ。払い戻しが必要なフライングや出遅れがなかったことを意味する「スタート正常」が表示されると、その後のレースの行方には関係なく、施行者にとっての収入が確定する。大型レースでは担当者の「よし」という声が記者室に聞こえることもある。
モーターボート競走会の斡旋で選手を大会に招く主催施行者にとって、売り上げをもたらしてくれる人気選手こそがMVPになる。
2023年1月1日から12月31日までの全国24場55000レースの売り上げ総額は2兆3943億円だった。オッズから推計される舟券枚数を集計すると、選手の売り上げ貢献度がわかる。なお、連単連複は2分の1、3連単3連複は3分の1で集計している。
売り上げを階級別に集計すると、上位20%のA1選手(325人)が全体の45%を売り上げていることがわかる。A級選手はB級の2倍の出場機会(斡旋)があり、また、売り上げの大きなグレードレースにはA級選手しか出場できないためだ。
2023年中に出場した1619人のトップは峰竜太(佐賀、以下敬称略)で、概算売り上げは133億円。ボートレース界のスーパースターは一般戦には滅多に出ない。トップ選手が揃うグレードレースでも、峰を外した舟券を買うには勇気が必要だ。
2位は馬場貴也(滋賀)で112億円。8月のSGメモリアルの覇者で、峰と並ぶビックレース優勝戦の常連だ。
3位の池田浩二(愛知)も優勝戦進出(優出)8割を誇る。103億円。
4位の茅原悠紀(岡山)も100億円を超えた。
舟券を買うファンにとってのMVPを決めるのは払い戻し額だ。
払い戻しの総額は売り上げの約75%。残りの25%は運営コスト、選手の賞金や日当、施行者の収益(約7%)になる。
2023年の払い戻し総額は1兆7829億円(概算)だった。
A級とB級の選手が交流する大型レースはそれほど多くないため、払い戻しの階級比率は売り上げとほぼ同じになる。
払い戻し額トップも峰竜太。年間を通して複勝率(1、2着になる割合)が7割を超えたのは峰だけだ。104億円は売り上げの78%にあたり、払い戻し率を超えて期待に応えたといっていいだろう。
4位の石野貴之(大阪)は74億円。売り上げで勝る茅原を年末のグランプリでまくり切った。
売り上げより払い戻しの方が多い選手は9人しかいない。その中で唯一のA1選手、宗行治哉(広島)は11億8000万円を売り上げ、12億円を払い戻した。ファンの期待に応えたという意味では最高殊勲選手だ。
なお、25人(多くは新人)は一度も舟券に絡まず、払い戻しが0円だった。
選手にとってのMVPの基準は獲得賞金だ。そのランキングは年末のグランプリ(賞金王決定戦)などのビックレースの出場権に直結している。
ボートレースでカウントされる賞金には、準優勝戦や優勝戦の賞金だけでなく、日当や無事故完走などの報奨金も含まれる。副業を持たない選手にとっては収入のすべてになり、B2級の新人選手でも4-500万円になる。総額は318億円。
階級別に集計すると、2割のA1選手が4割の賞金を手にすることがわかる。
6艇で争うボートレースでは、実力のある選手が手を抜く不正が比較的容易だ。勝ち進まない限りは得られない賞金の存在が、ほとんど唯一の安全装置になっている。
2023年の賞金額トップは石野貴之。2億2203万円。年末のグランプリを制して優勝賞金1億1000万円を獲得、6位から年間賞金王に躍り出た。石野の賞金王は2度目。
2位は峰竜太の2億87万円。7月の蒲郡ダービーで通算100勝を決めて賞金ランキングでもトップに君臨。年末のグランプリ2着の賞金4700万円を上積みしたが、石野に逆転されてMVP3冠を逃した。
3位は馬場貴也の1億6153万円。年末まで首位の峰に肉薄していたが、グランプリ初戦でターンマークに接触して転覆、失格となった。
4位は茅原悠紀の1億5653万円。
2023年は、賞金王を逃したものの、謹慎処分から復帰した峰竜太、売り上げ・払い戻しでボートレース業界を盛り上げた1年だった。
リスク志向高まる?
競艇ファンの23年の成績も振り返っておこう。我々は果たして正確に予想できていたのか?
全レースの単勝・連単・3連単約750万件をオッズ別に分け、当選舟券の割合をオッズの逆数と比較すると、以下のようになる。
ほとんどのオッズのグループで基準確率の75%を実現している。つまり、どのオッズの舟券を買っても期待値は同じになるということだ。競艇ファンは集団として正確にレースを予想できていたと胸を張っていいだろう。
ただ、2020年と比較すると、200倍以上の高オッズ舟券を買い過ぎている嫌いがある。それが、売り上げが2倍近くに拡大して新規参入者が増え、予想が下手になった結果なのか、一攫千金を狙うリスク志向が高まったためなのかは分からない。
売り上げ規模は踊り場
ボートレース業界にとって、2023年はコロナ禍で膨れ上がった売り上げ規模が維持できるかどうかの正念場だった。
12月までの売り上げ規模は前年度比98%。一般戦の売り上げは下がったが、大型レースの売り上げは前回比プラスが続いている。2024年はスター選手への依存がより強まる年になるかもしれない。
データについて 各レースの売り上げと舟券のオッズは、一般財団法人ボートレース振興会が速報値として提供しているものを使用した。
振興会が広報するオッズは必ずしも最終オッズでなく、また、1000倍以上のオッズが999倍として扱われているため、推定される舟券販売数には誤差が生じている。販売数は締め切り後に公開されているが、データとしては取得できなかっただめだ。推計した売り上げ額は選手の人気の指標としての「発売額」で、フライングなどの返還分は考慮していない。