Sound of
Dragons Blue

試合経過のソニフィケーション

2022年のドラゴンズは最下位で終わった。春先、野球の話ばかりしていた編集局長も、秋が近づくにつれ、ほとんど口にしなくなった。そんな青い血が流れているドラゴンズファンの心に響いていた音楽は、おそらくブルーノートに違いない。

ブルーノートとは

ブルーノートは、ジャズやブルースで多用される、アメリカの黒人音楽にルーツを持つ独自の音階だ。

西洋音階と比べて陰鬱で悲しい(ブルーな)印象を与える音符(ノート)で、いまでは日本のポップスでもよく使われている。負けた夜のドラゴンズファンの心にもこれに似た音階が流れている。

この音階を使って、試合経過をどう表現したらいいだろうか。

打席結果を音符に

変換の原則として1イニングは1小節、1打者は1音に対応させることにする。その上で音程と長さを以下のように決めることにしよう。

音符化のアルゴリズム
打席結果音程長さ
本塁打4音上1打点で2倍、2打点で3倍になり、4打点(満塁本塁打)は5倍
三塁打3音上
二塁打2音上
単打・野選1音上
ゴロ・フライ
エラー
1音下
三振
ダブルプレー
2音下
音程は守備時には上下が逆になる

音程はイニングごとにド(C4)に基準を戻す。また、収まりのいい20小節で終わるよう、最後のイニングをリフレインする。

16分音符まで使うことにすると、打者一巡の大量得点回では音が1小節に収まらなくなり、音程も楽譜から飛び出してしまう場合もある。その際は打点による長さの表現を省略し、1オクターブ上下する。

このような計算手順(アルゴリズム)に従って音符に変換したドラゴンズ3者凡退の回は、以下のようになる。

ファンのため息が聞こえてきそうだ。打者一巡6失点の回はさらに陰鬱だ。

1−10で完敗した5月21日の対広島10回戦は、ドラゴンズの淡白な攻撃(奇数小節)と広島の猛攻(偶数小節)が対照的な試合だった。

勝ち試合にまで短調を使う必要はない。ブルーノートには長調スケール(長音階)もある。

長音階を使うと試合の印象はずいぶん変わる。

5月6日の対阪神6回戦は、大野雄大投手が10回二死まで完全試合を達成した今季最高の試合だった。3者凡退が続く奇数小節(阪神)のリズムが、最後の最後に乱れる。

データの可聴化

データを音に変換して、強度や頻度、パターンを探る手法はソニフィケーション(可聴化、sonification)と呼ばれ、100年ほど前からさまざまな試みが続けられている。最も成功した応用例は、放射線の強度を音で知らせるガイガーカウンターと手術室の心拍計だ。

コンピューターが普及した50年ほど前からは、株価や天気などのデータをアートとして表現するインスタレーションも登場した。最近でもNASAの研究者によるブラックホールの可聴化プロジェクトが発表されている。

人の聴覚は、繰り返しや音の高低、頻度、強度の異変を同時に気づく能力に優れている。ただ、それが何を意味するかの約束事は事前に理解しておかなければならない。今季のドラゴンズは残念ながらブルーノートを使ったが、来季はもっと明るい変換アルゴリズムを採用したい。

各試合のタイルをクリックすると、再生ボタンが表示されます。

データ 試合経過は日本野球機構の公式データを使用した。音はTone.js、楽譜の描画はVexFlowを使用した。ベースラインはC2,F2,G2,C2の根音の繰り返し(プログラムとして定義可能なコード進行の提案があればお知らせください)。