イラスト:NASA-GSFC, Adriana M. Gutierrez(CI Lab)

最遠銀河をのぞく

新宇宙望遠鏡が運用開始

欧米加の精密技術の粋を集めたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2022年7月、観測を始めた。宇宙が誕生して最初に光り始めた星を観測することを目指す。

ジェームズ・ウェッブ(JW)宇宙望遠鏡は、アメリカ・欧州・カナダが100億ドル(約1兆4000億円、運用費込み)をかけて作った宇宙望遠鏡だ。1960年代にアポロ計画を率いた第2代NASA長官の名前を冠している。1990年のハッブル宇宙望遠鏡の後継として、2021年12月25日に打ち上げられた。もちろん、より遠い天体を観測するためだ。

膨張する宇宙では遠方にある天体ほど高速で遠ざかっているため、ドップラー効果で光の波長が赤い方にシフトする。そのため、より遠い光を見るためには、より赤い光を見なければならない。ハッブル望遠鏡が主に可視光線を観測するのに対して、JW望遠鏡は赤外線を観測する。

限界に近い解像度

搭載された近赤外線カメラは、角度の単位で132秒(0.036度)四方の画角を約1600万画素(ピクセル)で記録する。1ピクセルあたりの解像度は0.031秒、100キロメートル先の1.5センチに相当する。中赤外線カメラの解像度はその半分。光の「波の性質」から来る解像度の限界に近い。

太陽や地球から放射される赤外線の影響を避けるため、テニスコートの大きさの銀色の「日除け幕」を持つ。センサー自体のノイズを抑えるため、近赤外線カメラはマイナス234度、中赤外線カメラはマイナス266度に冷やされている。超高感度で、ハッブル望遠鏡では何日も必要だったものが数時間で撮影できる。

文字通り宙に浮いている宇宙望遠鏡には、カメラの性能に見合うだけの高精度の「手ぶれ補正」が必要になる。JW望遠鏡は観測カメラと同等の性能の方向確認カメラを備え、ひとたび目標の星を捉えると64ミリ秒ごとに姿勢を制御する。設計通りならば、十時間以上の長時間露光をしても1ピクセルもずれない。

宇宙望遠鏡の位置

ハッブル望遠鏡は、地上600キロの軌道を約96分の周期で回っている。国際宇宙ステーションよりは200キロも高いが、地球に事実上張り付いている。

当初からスペースシャトルを使った改修が予定されており、これまで計5回の改修でカメラやコンピュータが当時最新のものに置き換えられた。打ち上げから30年間以上を経て、なお現役を続けている。

一方、JW望遠鏡は、太陽の反対側に150万キロ離れた場所(通称ラグランジュ点)で縦に円形を描きながら漂っている。常に太陽と地球が同じ側にあるため、日除けの幕が両方とも隠してくれる位置だ。月までの距離の約4倍も離れているため、修理に行くことはできない。最長10年間稼働することが期待されている。

JW望遠鏡は打ち上げから1カ月後の2022年1月に観測位置にたどり着き、観測機器の調整を続けてきた。その間に最初の観測テーマが5件選ばれ、7月11日、バイデン米大統領によって発表された。

最初の画像: 最遠銀河団

新望遠鏡のお披露目画像に選ばれたのは、SMACS0723と名付けられている南半球・とびうお座の銀河団だ。数千の銀河が集まって見える領域で、北半球からは見えない。

波長を変えながら長時間露光(最長7500秒)で撮影した6枚の画像を合成した擬似カラー画像は、かつてない鮮やかさだった。

重力レンズ

最も印象的なのは、手前にある銀河の重力によって千切れるほど引き伸ばされた銀河の渦だ。巨大な質量によって空間が歪むというアインシュタインの相対性理論が可視化されている。

赤方偏移

JW望遠鏡には最大150個の天体の光の波長別強度(スペクトル)を同時に計測できるスペクトログラフが備えられている。それを使って銀河団の48個の銀河の特徴を比較することで、地球からの距離を推定できる。

この銀河のスペクトルは以下のように計測された。水素と酸素の原子が出す光がピークを作っている。

本文

地球からの距離は113億光年と推定されている。

次の銀河のスペクトルは以下のようだった。

本文

水素と酸素のピークがドップラー効果によって右にずれている。地球からの距離は推定126億光年。

この銀河のスペクトルはさらに右にずれている。

本文

地球からの距離は推定130億光年。

最後の銀河のスペクトルは、推定131億光年離れていることを示している。

本文

光速の数十%の速度で遠ざかっていることになる。

大統領によるお披露目では、JW望遠鏡に搭載されたさまざまな機器もPRできるよう、多彩な天体が紹介された。

サザンリング星雲

惑星状星雲「サザンリング星雲」は、南半球の星座「帆座」にある。地球からの距離は2000光年。燃え尽きた星(白色矮星)が放出したガスが輝いている。

JW望遠鏡の中赤外線カメラでは2つ目の星がはっきり見える。

このペアの星がお互いの周りを回っているため、周囲に噴出するガスが非対称に広がっている。

ステファンの五つ子銀河

ペガスス座にある通称「ステファンの五つ子銀河」。北半球からも見える位置にある。

五つ子と名付けられているが、互いの重力にひかれている銀河は右の4つの銀河だけ(地球から2億9000万光年)で、左端の銀河はかなり手前(地球から4000万光年)にある。天文学者にとっては「非常に近い銀河」で、構造が詳しく研究されている。

中央部分は二つの銀河が衝突している貴重な例で、雲状の衝撃波が四方に広がっている。見かけの大きさは月の5分の1程度もあり、カメラの画角に収まらないため、約1000枚の画像を貼り合わせている。

カリーナ星雲の宇宙の崖

南半球で最も大きな星雲「カリーナ星雲(りゅうこつ座星雲)」はりゅうこつ座にある。

積乱雲のように起伏のあるガスは、天文学者には山脈に見えるらしい。その北西の端の領域(NGC3324)は「宇宙の崖」と呼ばれている。地球からの距離は7600光年。

生まれたばかりの星が放つ強烈な紫外線によって輝くガスは、「わずか10万年ほど」しか続かない。赤外線カメラによって、これまでガスに隠れていた生まれたての星が透けて見える。

太陽系外惑星(WASP-96b)

JW望遠鏡のスペクトログラフは、月面で灯したマッチを地球から捉えることができるほどの高感度を誇る。そのデモンストレーションのために選ばれたのがWASP-96bだ。2014年に見つかったほうおう座の恒星の惑星で公転周期は3日半。地球から約1150光年離れている。

恒星の手前を通過する惑星が影をつくり、光の強度が変化する様子がスペクトログラフで記録された。

グラフは1.4分間隔で6時間23分間計測したデータを示している。減光量は1.5%。天文学者も新聞と同じようにかなり誇張したグラフを描くのだ。

天文学者のアート

JW望遠鏡は鮮やかな宇宙を見せてくれるが、SF映画の主人公になってその銀河を訪れても、同じ光景が見えるわけではない。公開された画像は、科学上の目的のために選択されたフィルターを使って得られたモノクロ画像を、天文学者が色付けた「擬似カラー」の画像だ。

可視光によるカラー写真と赤外線画像の擬似カラー写真で同じ星雲を比べてみると、同じ星雲には見えないだろう。

とはいえ、高速で遠ざかっていく遠い宇宙は赤外線でしか見えないのだから、修正前のお見合い写真のような「真実の写真」がどこかに隠されているわけではない。最遠銀河の鮮やかな画像は、天文学者の美意識に一任されている。

写真はNASA(米航空宇宙局)、ESA(欧州宇宙機関)、CSA(カナダ宇宙庁)、STScI(宇宙望遠鏡科学研究所)の提供。カリーナ星雲の比較写真は欧州南天天文台の提供。JW宇宙望遠鏡の軌道データは、NASAジェット推進研究所のHorizonsデータベースを使用した。