日食の0.1秒を追う

2020年6月21日に金環食

6月21日にアジアを中心に金環食があり、日本でも太陽が半分ほど隠れる部分日食になる。日本のほとんどの地域では今後10年間、日食を観測できない。2020年現在の日食体験について、専門家に聞いた。

6月の金環食は、21日午後2時前(日本時間)にアフリカ中央部で始まり、エチオピア、パキスタン、中国、台湾を通過し、午後5時半過ぎに米グアムの近くで終わる。

日本では、午後4時ごろに太陽が欠け始め、5時10分ごろに食が最大になる。名古屋では太陽の4割、沖縄・石垣島では9割が月に覆われる。

19年12月26日の金環食

東アジアでは、2019年12月26日にも赤道付近で金環食があった。気象衛星ひまわり8号が月の影をはっきりとらえている。

次は2030年

今回を逃すと、日本では今後10年間、日食を体験できない。

東京から見た、2030年までの新月と太陽との見かけの位置関係を図にすると、軌道が重なる機会は何度もある。しかし、すべての「日食」は水平線の下、つまり夜に集中している。

昼間に太陽と月が近づく『ニアミス』は、インドネシアを通る皆既日食の際(2023年4月)に起きるが、影は九州南部などにしか届かない。文字通りの「天の巡り合わせ」で、現在の日本の小学生の大半は、日食を見ることなく大人になることになる。

2020年の日食追跡人

地上で見られる最大の天文ショーである日食に魅せられた大人は多い。

フランスのザビエ・ジュビエ氏は、20年にわたり世界各地で日食を観測しているアマチュアの「日食追跡人」だ。本業のITマネージャーの知識を生かして、予測プログラムを開発している。

ジュビエ氏にとっては、どの日食も同じではない。「6月の金環食は近年では最も『深い金環食』です。サウジアラビアで観測する予定ですが、新型コロナウイルスの影響で行けそうになく、本当に残念です」。

「深い金環食」はフランス語の表現で、英語では「薄い金環食」と呼ばれる。太陽が地球から遠く(深く)、月の見かけの大きさに近いため、光の輪が薄くなることを指す。

次のグラフは、1900年から2100年の間の日食について、地球から太陽、月への距離、継続時間などを図示したものだ。6月の日食は、金環食と皆既日食の境目近くで起きる。

0.1秒の誤差

ジュビエ氏のプログラムは、月の地形データを使って、0.1-0.2秒の誤差で日食の接触時刻(食が始まり、終わる瞬間)を予測する。影が秒速1000メートル前後で移動することを考えると、驚異的だ。

米航空宇宙局(NASA)のアーネスト・ライト氏によると、月の位置は、アメリカのアポロ計画とソ連のルナ計画で月面に設置されたレーザー反射器を使って絶えず計測されているため、1センチの精度で予測できるという。また、2007-09年に打ち上げられた日本の月周回衛星かぐやとアメリカの月周回衛星ルナー・リコネサンス・オービターによって、月の地形図が作られ、数メートルの精度で標高がわかるようになっている。

ライト氏は「日食の時、月のどの谷で最後に太陽が隠れ、どの谷から最初に現れるか、理屈の上では正確に予想できます」という。

月の標高データは一般に公開されている。アメリカの月周回衛星のデータを使ったものは、約100メートルごとに誤差1メートル、日本のかぐやのデータを使ったものは、59メートルごと(両極付近を除く)に誤差3~4メートルをうたう。

この3D画像は、半径1737.4キロの基準球面からの高低差を20倍に強調している。

月は裏側のほうが高低差が大きい。南半球には「エイトケン盆地」と呼ばれる巨大クレーターがあり、大きくえぐれている。

月の自転周期は公転周期と同じであるため、地球から見た月はいつも同じ面を向いている。標高地図が作られる以前は、月の写真を分析して作られた「ワッツの月縁図」を使って、日食の開始・終了時刻を予測していた。

現在では、標高地図を使って、観測する場所によって微妙に異なるシルエット(縁)を計算し、高精度な予測につなげている。

ジャビエ氏によると、予測精度をさらに向上させるには、太陽の視覚的サイズを見直すことと、大気が太陽の光を屈折する度合いを見積もることが必要だ。

「太陽の大きさは通常、国際天文学連合(IAU)が定めた半径69万5700キロを使って計算しますが、実際はそれよりも相当大きいです。私の予想でも大きな数値を使っています。いずれにせよ、10年前には到底不可能だったレベルで正確な予測が可能になっています」という。

日食シミュレーター

6月21日の金環食は各地でどのように見えるだろうか。以下の図では、選択した場所と時間の太陽と月の位置関係を計算している。台湾中南部の嘉義市では日本時間で17時15分ごろ、金環食が観測できることがわかる。(マウスホイールで拡大縮小できます)

方位センサーを備えたタブレット端末やスマートフォンでは、スクリーンを実際の方角に向けると日食が表示されます。太陽光を直接見ないよう注意してください。

方位センサーは地球の地磁気を利用するため、磁石や電気製品が近くにある室内では正しい方角を示しません。表示の精度はセンサーに依存します。センサーの利用を許可する必要がある場合があります。

データについて 日食期間中の月と地球の座標は、米航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所が公開している天体情報システムHorizonsを使用した。月の標高データは、NASAのLOLA Science TeamによるMoon LRO LOLA DEM 118m v1を使用した。地球や月面の画像は、NASAのScientific Visualization Studioの正規化モザイク画像を使用した。ひまわり8号の映像は、情報通信研究機構(NICT)が加工・配信しているひまわり8号リアルタイムWebを使用した。