夢の結晶 男子フィギュア 真4回転時代

 「夢の結晶」最終回は、フィギュアスケート男子を特集する。羽生結弦(23)=ANA=や宇野昌磨(20)=トヨタ自動車、中京大=らが出場し、メダルの期待がふくらむ中、勝敗の行方は4回転ジャンプの成否が鍵となる可能性が高い。「真4回転時代」とも呼ばれるジャンプの高難度化の波は、いかに巻き起こったのか。この4年間の進化を振り返る。 (國島紗希)

きっかけは羽生の330点

ソチまでは1種類でも王者になれた

 男子フィギュアスケートの技術の進化は著しい。ソチ五輪以降、羽生が4回転ループを、宇野がフリップを世界初成功。今やトップスケーターにとって4回転を何種類、何本跳ぶかは勝敗を左右する重要なポイントだ。

 4年前のソチ五輪までは、1種類でも4回転が跳べれば世界王者になれる可能性があった。ソチ五輪のトップ6はSP、フリーを合わせて4回転は2〜3本、種類は2種類だったが、それをすべて決めた選手は金メダルを獲得した羽生を含めていなかった。

 その後、ジャンプの高難度化が進むきっかけとなったのが2015GPファイナルだ。この大会で、2位以下が200点台の中、羽生は330.43点というずばぬけた世界歴代最高得点をマークした。4回転は、SP2本、フリー3本の2種類計5本。出来栄え点などすべての加点がついた場合を“満点”とすると、得点率は約95%。それくらい取りこぼしがなかったのだ。つまりこれは、この構成で得られる得点のほぼ最大値だったとも言える。

この4年間でめざましい技術の進化

 そこから、世界は「330の壁」へ挑む戦いが始まった。壁を越えるための手っ取り早い方法は、単純に技術点=技の難度を上げること。バンクーバー五輪のフィギュアスケート日本代表監督で千葉大の吉岡伸彦教授が「元来フィギュアスケートは“いたちごっこ”で技術を高めてきた」と話すように、かねてフィギュアスケート界は、高得点を得るためにさらに高難度の技に挑むという流れで成長を遂げてきた。

 羽生を追う宇野やネーサン・チェン(米国)、金博洋(中国)ら若手選手は、次々と高難度の4回転を跳び、16年の夏には、負けじと羽生も4回転ループをマスター。羽生は4種類、チェンが最多5種類など、トップ選手が多種類を跳ぶ「新・4回転時代」が幕を開けた。

左から羽生結弦、宇野昌磨、フェルナンデス、ネーサン・チェン、金博洋(写真はいずれも共同)

表彰台全員4回転×6

平昌金メダルの鍵は多種類&完成度

 昨季の世界選手権は「難しいジャンプを失敗しなかった人が勝つ」(宇野)という厳しい戦いとなった。表彰台は1位羽生、2位宇野、3位金博洋で全員が4回転計6本。3連覇を目指したフェルナンデスは計5本で4位と沈んだ。計8本に挑んだネーサン・チェンは、4回転の2度の転倒などで得点が伸びず6位だった。いかに4回転に挑み、決めるか。その中で演技とのバランスをとり、完成度を高めるかが勝負の鍵。それを羽生は新でなく「真・4回転時代」と表現した。

 今季初戦、オータムクラシック(9月)で羽生はいきなりSP世界歴代最高点(112.72)を更新した。しかし、これは足の不調のため、難易度を下げてトーループとサルコーだけだった。全日本選手権を終えた宇野は、習得した4回転サルコーを封印して、演技全体の完成度を高めようとしている。ひたすら高難度のジャンプに頼るのではなく、堅実な道を選ぶという戦い方もある。誰がどんな戦い方を選ぶのか。4回転ジャンプとともに、それぞれがその道を信じて突き進む。熱い男の戦いが繰り広げられるはずだ。

バランス型の羽生、引くという選択も

 羽生はGPロシア杯(10月)で4種類目となる4回転ルッツを初成功。周囲はハイリスクゆえに挑戦にあまり賛同しなかったが「本気を出せるプログラムでやりたい」と言い、挑んで決めた。しかしその後11月のNHK杯の公式練習中、着氷時に右足首を痛めて長期離脱。まずは万全の状態で五輪の舞台に立つことが重要だ。

 4回転の波を起こした羽生だが、元来持っている世界最高峰の表現力にジャンプが加わり、どちらも秀でている「バランス型」だ。だからこそ挑戦だけでなく、引くという選択肢もある。挑戦すること自体を生きがいとする羽生が、いかに心を決めるかがカギになる。

4回転サルコー回避へ

宇野

 昨季世界選手権2位の宇野は、ここに来て自身に不満が残る演技が続いている。その理由の1つが、跳べるからこそ定まらないジャンプ構成。代表内定後は「去年と全く同じ構成を、まず自分の体にしみこませる」と話しており、今季新導入した4回転サルコーは回避の方針だ。みっちり練習した成果を、まずは24日開幕の四大陸選手権で確かめる。

五輪で5種類披露!?

チェン

 ジャンプの申し子・ネーサン・チェン(18)=米国=は、今季初戦のUSインターナショナル(9月)で4回転ループを決め、クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を除く4回転全種類を世界で初めてマスターした選手となった。全種類を組み込んだ“異次元プログラム”については「すぐにじゃないけど、可能だとは思う」と話しており、五輪で見られる可能性もある。

4回転を跳ぶには

 フィギュアスケートのジャンプは、進行方向に進む力を、スケート靴のトーやエッジを使ったりすることで向きを変え、高さと回転を生み出すことで成立している。吉岡教授によると、「多くの選手のジャンプは(回転速度が)1秒間に5回転前後。4回転ジャンプの場合、滞空時間は0・7〜8秒必要になる」という。滞空時間を延ばすためには助走スピードを速める必要があるが、速ければ速いほど推進力を跳び上がって回転する力に変えるタイミング、技術、そのために必要な力も大きくなる。滞空時間を延ばすことで、難度は格段に上がるという。

※ご利用のブラウザのバージョンが古い場合、ページ等が正常に表示されない場合がございます。

Search | 検索