ソチ五輪2014 熱い記憶−記者座談会−

 ソチ五輪から4年、いよいよ2月9日に平昌五輪が開幕します。ソチではどんなドラマがあったでしょうか。2014年当時の紙面記事を読むと、平昌五輪を見る思いが少し変わるかもしれません。

ソチ五輪2014  熱い記憶−記者座談会−

 ソチ五輪は23日、幕を閉じた。日本選手団は、海外で行われた冬季五輪としては過去最高のメダル8個を獲得した。羽生結弦がフィギュアスケート男子初の金メダルを獲得したほか、冬季で日本最年長、最年少のメダリストも誕生。引退の意向を表明しているフィギュアスケート女子、浅田真央がフリー演技に流した涙など、記憶にも残る大会となった。選手たちの奮闘ぶりを間近で見続けた6人の記者が、17日間の熱戦を振り返った。

モスクワ総局 原 誠司(48)
ロンドン総局 小杉 敏之(45)
社会部 杉藤 貴浩(35)
運動部 海老名 徳馬(34)
運動部 対比地 貴浩(32)
長野支局 市川 泰之(28)

フィギュアスケート 羽生、真央  強さ見せた

フィギュアスケートはいろいろドラマがあったね。

団体戦が新設され、開幕前から閉幕直前まで続いたので各社のフィギュア担当は大変だった。その団体戦で日本は5位。ペアとアイスダンスで得点が稼げなかったのは予想されたこと。このルールの中で日本はこのくらいの力ということだ。

男子では羽生結弦が期待にこたえた。技術で世界のトップにいるのはもちろん、重圧に負けない精神的な強さがある。まだ19歳だけに連覇も期待したい。男子は代表選考で議論も呼んだが、全員入賞でレベルの高さを証明した。

違う形で強い気持ちを見せたのが浅田真央だった。ショートプログラム(SP)であそこまで崩れるとは予想していなかったが、一日で立て直し、今季初めてトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を決めた。フィギュアという競技を超えた存在という意味で、他の選手とはまるで違う重圧を背負い続けてきた。大粒の涙が印象的だった。

日本選手でロシアメディアに最も大きく取り上げられたのも彼女だった。ロシア初のフィギュア女子金メダリストになったアデリナ・ソトニコワが「彼女と同じ大会で滑ることができて良かった」と浅田を称賛し、注目度が一気に高まった。地元紙は浅田がメダルを逃したことを「日本の国民的悲劇」などの見出しで報じていた。

政治的に緊張関係が続く中国のサイトでさえ、「感動的だった」と浅田をたたえる書き込みが相次いだ。

鈴木明子はバンクーバー五輪と同じ8位だったけれど、順位以上に記憶に残る演技はさすが。初出場で12位と本来の力を出し切れなかった村上佳菜子は4年後も頑張ってほしい。ただ、今後のフィギュア界にはロシアの時代が来るかもしれない。

スキー  ジャンプ・複合 大きかった葛西の求心力  複合は渡部暁に続け

ジャンプは男女で明暗が分かれた。最大の衝撃は、今季の女子ワールドカップ(W杯)で13戦10勝の高梨沙羅が4位に沈んだこと。

高梨は大会前に何度も「感謝を込めて飛びたい」と口にした。女子ジャンプは新種目。道を切り開きながら五輪に出られなかった先輩への思いが強すぎたのかも。日本勢3人が全員10代という若さも、精神面ではマイナスに働いたのかもしれない。

圧巻だったのは41歳にして男子個人ラージヒル(LH)で銀メダルを獲得した葛西紀明だ。団体も銅で日の丸飛行隊の復活をアピールした。

それぞれ故障や病気を抱えていて個人、団体ともにメダルを逃してもおかしくない状況だった。誰ひとり大きなミスなしで終えたのは葛西の求心力が大きかったから。後輩を自宅に招き「ご飯を食べたり、どんちゃん騒ぎをしたり」と私生活でも交流を深めていた。

ノルディック複合で渡部暁斗が銀。1990年代に活躍した双子の荻原健司さん、次晴さんがテレビで興奮したり泣いたりしたことが日本で話題になったそうだ。それだけ重いメダルだね。

育成の勝利と言えるかも。渡部暁は高校2年で2006年トリノ大会に初出場。才能を見込んで早くから五輪を経験させたことが、今回の成功につながった。ただ、他の代表4人は個人種目で入賞できず団体も5位。エースに続く若手を育てなければ。

滞在先の環境も良かった。

複合チームは日本勢で唯一、日本オリンピック委員会(JOC)が設けた「マルチサポートハウス」に宿泊した。選手村が高地にあり、健康管理が難しいなどの理由で特例で認められた。日本食が食べられるため、渡部暁は「普段の遠征より千倍いい」と上機嫌だった。デザートのぜんざいが活力源だったとか。

スノーボード 男女とも大躍進  モーグル新時代へ

スノーボードでは三つのメダル。前回バンクーバー大会までゼロだったから大躍進だ。

ハーフパイプ(HP)男子では15歳の平野歩夢が日本選手史上最年少メダルとなる銀、18歳の平岡卓が銅。10代コンビが3連覇を狙った絶対王者ショーン・ホワイト(米国)を破ったのはすごかった。

2人は軸をずらして3回転する高難度の空中技を連発し、テクニックの高さを見せつけた。ともに初出場ながら「緊張しなかった」と語り、器の大きさを感じさせた。

女子はアルペンの竹内智香がパラレル大回転で銀。大会第13日にして日本の女子初メダルでもあったから価値があった。日本連盟の強化と一線を画してスイスを拠点にした時期もあったが、試合後は「良くも悪くも、私がわがままだからできた」と特殊な事例だったことを強調していた。連盟も彼女の経験の良かった面を生かしてほしい。

フリースタイルスキーはメダル一つ。結果以上に印象深かったのはモーグル女子の上村愛子だった。

過去4大会で一つずつ順位を上げてきて、今回はバンクーバーと同じ4位。悔しさはあっただろうけど「達成感はマックス(最高)」というさわやかな笑顔が心を打った。持ち味のターンが評価されず得点が伸び悩んだのには、一時代の終わりを感じた。

新種目のHPでは女子で小野塚彩那が銅を獲得。アルペンから転向3季目でのメダルだった。

ただ、気になるのが全体の競技レベル。決勝では出場11人のうち6人に転倒などミスが相次ぎ、上位と下位の間に力の差があるのは否めなかった。

スピードスケート 世界トップと地力に差

バンクーバー大会で三つメダルを取ったスピードスケートは不振が目立った。

メダルなしの結果に驚きはない。そもそもメダル争いに絡めるのは男子500メートルの加藤条治と長島圭一郎ぐらいで、将来を期待できそうな若手も見当たらなかった。少なくとも世界ランキングで常時、トップ5に名を連ねる地力がなければメダル争いに割って入るのは難しい。

2大会連続メダルを狙った女子団体追い抜きは、初戦で韓国を下して4強入り。メダルが五輪のすべてではないが、2度勝てば銀以上が確定する種目とはいかがなものか。少なくとも各国が個人戦以上に重視しているとは思わない。

この競技を含め冬季競技の多くはマイナー。地域で支える企業の熱意は感じるけど、限界はある。

日本スケート連盟会長でもある日本選手団の橋本聖子団長が「選手だけでなく、指導者の雇用も企業に依存している」と環境整備の必要性を指摘したのは納得できる。

ショートトラックも惨敗した。

序盤で1人でも予選を突破する選手がいれば良かったけど。メダルを狙った女子3000メートルリレーが決勝に進めなかったこともあってチーム全体に勢いが出なかった。

お家芸の復活のためには海外を追うだけでなく、日本独自の技術や発想を生かした強化が必要かもしれない。

全体を見れば、韓国から国籍を変えて挑んだ地元ロシアのビクトル・アンの大会だった。個人、リレーで3冠。人生をかけて滑っている、という気迫を感じた。

カーリング カーママ健闘 スマイルジャパン世界と差

チームスポーツはメダルに届かなかった。予選を突破して出場するだけでも大変だった面もあるけど。

カーリング女子は健闘と言っていい。最終戦まで準決勝進出の望みを残して5位。2勝4敗から世界ランク上位のスイス、中国に連勝した粘りは将来につながる。結婚、出産を経て復帰した「カーママ」の小笠原歩や船山弓枝がチームをまとめたね。

強国に対抗するため、日本の代表選考を見直すことはできないか。今回は北海道銀行が出場。これまでもチーム単位で五輪に出場しているが、最強の選手を一つに集めた選抜チームを編成するのも手だ。

長野五輪以来の出場となったアイスホッケー女子(スマイルジャパン)は5戦全敗の最下位。攻守両面で世界と差があった。

体格で劣る日本は持久力と俊敏性に活路を求めたが、技術が決定的に足りない。重大局面でことごとく、大柄な相手に力でねじ伏せられた。手本としてきたサッカー女子代表「なでしこジャパン」との違いだ。敗戦後のコメントは驚くほど前向きだったが、それを意図して口に出さなければならないところに弱さも感じた。

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