花形の流儀 ジャンプ・高梨沙羅

平昌で悲願の金メダルを目指す高梨沙羅=大倉山ジャンプ競技場で

心と体 化粧でオン

 ワールドカップ(W杯)で過去4度の個人総合優勝を誇る21歳が、大きな目でほほ笑みながら意外な「悩み」を打ち明けた。「技術の一つとして知りたくて試行錯誤してみたんですが、二重のまぶたを一重にする技術がなかなか習得できずに困ってます」

身だしなみにも気を配り、平昌五輪への意気込みを語る高梨沙羅

 ノルディックスキー・ジャンプ女子の高梨沙羅(クラレ)はオフの気分転換として、化粧で有名人の顔まねをすることで知られるざわちんさんをお手本に、化粧の研究をすることがあるという。本業のジャンプ競技と違い、まだまだ習得できない領域があると苦笑いするが、20歳になった一昨年から始めた化粧は、オンからオフ、オフからオンの状態へと心を切り替える大事な時間だ。

 何より競技者として、試合前に鏡に向かう時間は、これから冬空を飛ぶ自分の心と体を立ち上げる「スイッチを入れる瞬間」だと断言する。例えば午前中に競技が始まる国内大会。午前7時に宿舎を出ないといけないときでも2時間ほど前には起床し、洗顔後に化粧を始めることは「オフの状態からオンにする、自分を起こす行動」という。早朝の薄暗い中で、ときには「すさまじい顔になっちゃうことも」とおどけるが、シーズン真っただ中では欠かせないルーティンだ。

 17歳で出場した前回ソチ五輪では、まだあどけない「ノーメーク」の素顔だった。一転、化粧を日課とするようになったのは、大人の仲間入りとなる20歳を迎えるにあたり「言動に気を付けなければ」との思いが芽生え、それにともなって身だしなみにも気を配るようになったから。当初は大人の雰囲気を強めに出す濃いめのメークだったが、勝負の五輪シーズンを迎えた今季は「ちょっと変えた」といい、素顔に近い自然な感じの「ナチュラルメーク」に。だがそれが定番となっても、無心で化粧を「やり込んでいる」と心のスイッチになることは変わらない。

高梨沙羅「勝負スイッチ」化粧の進化

 身だしなみや体の手入れは、顔に限ったことではない。周囲の助言を受けて意識していることの一つは、風呂上がりに足裏まで保湿オイルなどを塗ること。ジャンパーにとって足裏は、助走時の自分の重心の位置を感じ取る大事な部位。乾燥肌だと神経の伝達速度が遅くなるともいわれる。その感覚を研ぎ澄ますために、宿舎を出る前や競技会場でのウオーミングアップ中には、ゴルフボールで足裏のマッサージを施して感覚を鋭くする。

 さらに「食」にも目を向ける。飲む点滴といわれる発酵食品の甘酒を夕食時に取ってみたり、試合会場では補食のタイミングを重要視したり。風で競技が中断すると待ち時間が長引くことも多く、思考を止めないためにも、いつどうエネルギーを補うかを意識している。

 心身ともに細部にこだわる21歳。要所でスイッチを切り替えながら、悲願の金メダルに挑む。 (上條憲也)

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