花形の流儀 ジャンプ・伊藤有希

葛西紀明と同じ手のひらを下に向けたフォームで飛ぶ伊藤有希。ヘルメットには師の思いを込めた星がちりばめられている=2017年12月2日、ノルウェー・リレハンメルで(共同)

星になる 葛西に導かれ

 助走路から飛び出し、前傾した体に沿わせながら少し広げた両腕は、ジャンパーにとってはV字に広げた板とともに、さながら翼。ノルディックスキー・ジャンプ女子の伊藤有希(土屋ホーム)はその翼の先、両手のひらを下に向けて大きく開く。まるで風をつかむような空中姿勢は、所属先の監督でもある男子の葛西紀明の助言で始めたものだ。

 45歳の葛西が両翼に搭載したエンジンでジェット噴射する「飛行機」をイメージして飛ぶ。そのシルエットを重ねる23歳のまな弟子は「人によって骨格も違えば、違う飛び方の方が合う選手もいる。でも自分には合っているので続けている」。何より同郷の先輩でもある葛西との二人三脚の歩みが、心のよりどころだからだ。

師弟そろって平昌での活躍を目指す伊藤有希(左)と葛西紀明=大倉山ジャンプ競技場で

 生まれ育った北海道下川町は、葛西や1998年長野五輪の団体金メダルメンバー岡部孝信(現雪印メグミルクコーチ)、4度目の五輪を目指す伊東大貴(雪印メグミルク)ら五輪選手を輩出してきたジャンプの街。幼少期から飛び始めた伊藤にはとくに、葛西は憧れの存在だったという。

 やがて高校を卒業した伊藤を、練習熱心さにほれ込んだ葛西がチームに招く。所属先のスキー部総監督を務めた川本謙さん(昨年10月末で退任)によると、チーム初となる女子選手を迎えるにあたり葛西は「伊藤なら男子と同じ練習ができる。ダメだったら自分が一緒にできる練習メニューを作る」と周囲の不安を振り払った。事実、心配は杞憂(きゆう)に。伊藤は葛西ら男子に交じり同等の練習をこなしてきた。

 そんな伊藤には、葛西からもらった道具も力となる。一昨年末に贈られ愛用するのは、星印が描かれた競技ヘルメット。葛西が「スターになって」の願いを込めて図柄をイメージした特注品だ。「モチベーションが上がった」と伊藤は期待に応え、昨年1月のワールドカップ(W杯)で挙げた初勝利を機に昨季は5勝をマークし、星のようにきらめきを増す。

 迎えた今季は伊藤、葛西ともW杯はまだ本調子とはいかない。しかも今月は男子が欧州の転戦、女子は国内の連戦と別行動が続く。それでも二人三脚の歩みは変わらない。昨年末、葛西は欧州に向かう直前、日本で調整を続ける伊藤にこんな内容のメールを送った。

 「五輪につなげるため疲れを残さないように頑張れ。新しいヘルメットが届くからまた運気が上がるぞ」

 伊藤のために新たに用意したヘルメットは、13、14日の女子W杯札幌大会で披露される予定という。葛西の思いを胸に、再び高まりそうな伊藤のモチベーション。二人三脚の先に、さらに輝く瞬間が待っていそうな予感が漂っている。 (上條憲也)

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