花形の流儀 フィギュアスケート・羽生結弦

ロシア杯の男子フリーで演技する羽生結弦=2017年10月、モスクワで(共同)

型破りの「和」で再び

 中指と人さし指を立てる冒頭の所作を合図に、フィギュアスケート男子の羽生結弦(ANA)は、いにしえへの扉を開ける。「氷に踏み出した瞬間から役柄になりきっている」とは振り付けを行ったシェイリン・ボーン氏。笛と太鼓の音色に合わせ、悪霊と対峙(たいじ)するかのように体を翻し、手足をしなやかに振る。その姿は日本古来の占術を操るとされる陰陽師(おんみょうじ)に他ならない。

 平昌五輪で連覇を狙う今季、23歳の世界王者はフリー曲として2季ぶりに「SEIMEI」を選んだ。平安時代に生きた安倍晴明が主人公の映画「陰陽師」の劇中曲を編曲。「2年前に初めて滑った時から五輪シーズンで使うと決めていた」と温めてきた自信のプログラムだ。

 2015年12月にこの曲で現在も世界最高得点として輝く330・43点を樹立したとはいえ、五輪シーズンの選択としては定石ではない。フィギュアスケートでは、芸術性が評価される演技点が得点の半分近くを占める。五輪でメダルに近い選手ほど選曲はクラシック、オペラ、欧米の映画曲など、審判に聞きなじみのあるジャンルに傾く。日本の同僚、宇野昌磨(トヨタ自動車)が今季演じる「トゥーランドット」は歴代のトップスケーターに何度も使われた名曲だ。

 羽生は王道を歩めば、一定の得点が見込める「格」を持つが、あえて斬新な世界観に挑む。「日本では昔からの踊り、音楽が受け継がれてきた。それは自分のフィギュアスケートの形としてありなんじゃないか」。バレエやタンゴなど海外の文化から教え込まれたものではなく、日本舞踊や盆踊りなど先祖から伝わる和風の動きにこそ、「自分らしさ」があり、自然に表現できると考える。

 初めて「SEIMEI」を演じた15年の夏と昨年夏、羽生は晴明が祭られる京都市の晴明神社を訪ねた。15年は関係者の話を聞いたり、晴明の肖像画を食い入るように見つめたりして、10分で回れる境内の見学に約1時間を費やした。応対した宮司は「陰陽師についてかなり勉強されており、深い部分まで質問を受けた」と振り返る。

 紡がれてきた歴史を自らでかみ砕き、外国人振付師と一緒につくり上げたプログラムを、ブライアン・オーサーコーチは「傑作」とほれ込む。

 前回のソチ五輪後、トップ選手が競うように4回転ジャンプの種類、本数を増やした。その反動からか、羽生は昨年11月の練習中に右足首を負傷し、主要大会を欠場。今季わずか2戦に出場しただけで五輪本番に臨む可能性が高く、ジャンプへの不安は残る。

 それでもこだわってきた独自の芸術には魂が宿る。プログラムの完結に向け、懸命に回復を急いでいる。 (原田遼)

過去3大会五輪金メダリストのフリー

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