白銀に輝く 宇野昌磨・魂を継ぐ者

地元名古屋で行われたアイスショーで演技する宇野昌磨=名古屋市中区の愛知県体育館で

 フィギュアスケート男子の宇野昌磨(トヨタ自動車)は、出場すれば初めての五輪出場となる平昌冬季五輪で金メダルを目指す。同じ名古屋市出身で3度の世界女王に輝いた浅田真央さんにあこがれて競技を始め、2014年ソチ五輪金メダリスト、羽生結弦(ANA)の背中を追い続けた。フィギュア界の頂点を極めた2人の魂を受け継ぎ、自らの限界に挑む。(原田遼)

4回転 誓う“下克上”

羽生と宇野の主な直接対決の合計得点

 心の奥底に隠していた「負けず嫌い」の本性がうずいている。先月末、宇野は5カ月後の平昌五輪で金メダルを争うであろう盟友に思いをはせた。

 「ライバルという言葉は好きではないが、羽生選手に勝ちたい」。謙虚な19歳がこれまでになく、はっきりと“下克上”を誓った。

 今年4月の世界選手権(ヘルシンキ)で銀メダルを首に掛けた。表彰台の中央はいつものように羽生。その差は2.28点。一昨年12月のグランプリ(GP)ファイナル(バルセロナ)で53.64点開けられた差を、1年半の間に一つのジャンプで超えられるまで縮めた。「これまで勝ちたいと口に出せなかったけど、自分の気持ちを言える立場になれた」と自信をつけた。

 ジュニア時代から3歳年上の「ゆづ君(羽生)」は誰よりも高く、美しくジャンプを跳んでいた。他の選手には「負けたくない」だが、唯一羽生に対しては「勝ちたい」と思う。「全てが飛び抜けている」という崇高な存在だからこそ、実力で超えてみたい。

宇野昌磨の歩み

写真は(上から)ジュニア時代、中京大中京高の卒業式、史上初の4回転フリップ=共同、世界選手権銀メダル=共同

 五輪での決戦に備え、ショートプログラム「冬」、フリー「トゥーランドット」を用意。それぞれ2種類2本、3種類4本の4回転ジャンプを予定しているが、先月中旬の米シカゴ合宿では習得済みのループ、トーループ、フリップに加え、ルッツとサルコーの4回転を練習した。

 4回転は1本で10点以上の基礎点が与えられるが、同種類は一つのプログラムで2本までと規定される。近年は芸術性が評価される演技点で差がつかなくなっており「好ましくはないが、金を狙うなら4回転の種類を増やすことが一番効率的」と戦略を練る。

 ルッツとサルコーの4回転の成功はいずれもまだ「1週間に一度」。今月14日に開幕する今季初戦のロンバルディア杯(イタリア・ベルガモ)で挑む可能性は低いが、五輪までにどちらかを身に付ければ、4回転3種類の羽生を難易度で上回る。

 名古屋市で5歳で競技を始めてから挑戦の連続だった。愛知・中京大中京高1年の時には練習で一度も成功させていないのにトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をプログラムに入れた。一日に100本以上跳ぶ猛練習とともに実戦で挑み続け、2年がかりで成功。昨季は世界選手権前に習得間もない4回転ループを果敢にプログラムに入れた。

 「正確にできるもので固めるのもいいかもしれないが、できると思えることに全部取り組みたい」。159センチの小さな体で描く完成図は平昌まで無限の広がりを見せる。

本番へかける思い

 平昌五輪を見据えて練習に励む宇野に、競技を始めたきっかけや本番への意気込みを聞いた。

写真

真央ちゃんに誘われこの道へ

 −5歳から地元の「グランプリ東海クラブ」で競技を始めた。きっかけは。
 覚えていないが、親によると、名古屋・大須のスケート教室でフィギュアかスピードスケートかアイスホッケーかを選ぶ時に(同じリンクで練習する)浅田真央さんに誘われ、「真央ちゃんと同じことがしたい」とフィギュアを選んだらしい。

 −浅田さんをどう見ていたか。
 練習量がすごい。転んだりして大丈夫かなといつも思っていたけど、あれぐらい頑張らないと選手にはなれないのかと感じさせられた。それで僕も自然に練習するようになった。

山田コーチ のびのび指導

 −浅田さんや伊藤みどりさん、村上佳菜子さんら多くの五輪選手を育てた山田満知子コーチに学んだ。
 指導は本当に優しい。型にとらわれず、のびのびと、個性を伸ばしてくれる。クラブではみんな、ジャンプの跳び方が違う。誰も型にはまっていない。

 −先輩たちのように、自分も五輪にという思いは。
 これまでクラブから男子が出たことがないので、話題にもなる。深くは考えていないが、先生たちに恩返しができたらいい。

 −平昌五輪が近づいている。
 周囲からはすごく期待されているのは感じているけど、僕は「特別なシーズン」とはあまり考えていない。まだ何かを背負える選手でも、尊敬される選手でもない。目の前の練習や大会をひたすら頑張っていくしかない。

ゲーム大好き/集中は「君の名は。」で

 何かと私生活までストイックな印象をアピールしがちな現代アスリートとは違い、宇野は幼さを残した純粋無垢(むく)な魅力を持つ。

 練習では周囲が心配するほど肉体を追い詰める一方、リンクを離れれば、携帯ゲーム機を手にインターネットを通じた対戦に没頭する。

 海外遠征の際は「日本よりも練習時間が限られるので、ゲームの時間が多くなる」と無邪気に喜び、「ゲームと競技の両立が課題」と頭をかく。

 試合前にヘッドホンから流す音楽は常に同じで、何度も劇場に足を運んで観賞した映画「君の名は。」の挿入歌。興味がないことにはそっぽを向くが、好きなものはとことん突き詰める。

 嫌いな野菜もほとんど口にしない。15年にシニアに参戦するまでは体調管理に無頓着で、準備運動をほとんどせずに演技をしていたという。今ではダッシュの本数など決められたルーティンを行ってから演技に臨むようになり、樋口美穂子コーチは「何がスケートに必要かを少しずつ覚えてきた」と成長を語る。

演技前に音楽を聴いて集中を高める宇野昌磨

演技前に音楽を聴いて集中を高める宇野昌磨

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