白銀に輝く 堀島行真・雪山の王者

エアの練習をする堀島行真=白馬さのさかウォータージャンプで

 来年2月開幕の平昌冬季五輪で、金メダル獲得を目指すフリースタイルスキー・モーグル男子の堀島行真(19)=中京大=が、心身両面で強化に励んでいる。3月の世界選手権(スペイン)で非五輪種目のデュアルモーグルとの2冠を達成。一躍、時の人となったが、大きな期待を背負うことになった。若き「世界王者」に宿命づけられた重圧との戦い。真価を問われる新シーズンが始まる。(上條憲也)

問われる真価 進化必ず

最高難度解禁 後輩に誓う「金」

堀島が高校卒業前に「金メダルとります」と記し、後輩に贈ったポスター

堀島が高校卒業前に「金メダルとります」と記し、後輩に贈ったポスター

 今季は12月9日、ワールドカップ(W杯)の初戦フィンランド・ルカ大会で開幕する。先月中旬、長野県白馬村のウオータージャンプ場で行われた合宿で、堀島は自らに言い聞かせるように口にした。

 「自分がどういう姿になれば金メダルが取れるか。そこを日々考えている。毎日が充実しているか。目標にまっすぐ向かっているか」

 練習で男女の日本代表候補選手ら10人以上が一つのエア(空中技)台で列をつくって順番待ちをする中、「失敗したら時間がもったいない」と一回、一回に集中した。常に雪上をイメージ。頭の中で本番さながらの環境をつくり、勝負強さを求めて丁寧に空を舞った。

 盛んに繰り返していたのが、現時点で最高難度の技「ダブルフルツイスト(伸身後方宙返り2回ひねり)」。採点がより厳格化された昨季は、回転時に体の軸が微妙に傾いて減点を招いていたため、2月の札幌冬季アジア大会から封印していたが、「メダルを取るには難度の低い技では勝てない」と再び演技構成に取り入れた。

 その大技の完成度を合宿で採点してもらった。一回勝負で10点満点中、6.1。着水姿勢で力を抜いてしまった感覚が残った。案の定、点数は伸びなかったが「自分の感覚と客観的な目線が近かったのは大きい。いい時なら得点はぐんと上がる」と手応えをつかんだ。

昨季の堀島の主な成績

(写真は共同)

 高校3年生だった2015年12月のW杯初戦のデュアルモーグルで3位。国際スキー連盟から「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」の表彰を受けた。才能は高く評価されていたが、W杯の優勝は本格参戦4季目の昨季もなかったため、日本男子初の世界選手権制覇は衝撃的だった。

 周囲の注目が高まると、良くも悪くも気負いが生じた。「一番になったことでトレーニングから負けられない」。練習の量にこだわりすぎ、焦りが生じたという。世界選手権の直後に行われた全日本選手権のモーグル決勝は、中盤の斜面で加速しすぎ、ターンで転倒寸前。11位に沈んだ。「期待に応えたかった」と取材で話した後、大粒の涙をこぼした。

 振り返れば、世界選手権はW杯通算42勝で種目別6連覇の絶対王者、ミカエル・キングズベリー(25)=カナダ=のミスもあって、転がり込んできた金メダルだった。

 最近、キングズベリーが出場した大会の映像を見た。「やっぱり断トツで強い」。強敵に勝つには自分を超えるしかない。五輪を見据えてダブルフルツイストを再採用し、習熟を急ぐのはそのため。実家に残してきた世界選手権のメダルも「あの時の滑りのもの」と意識の中で切り離し、邪心を捨てた。

 迎えた今、目の前には真っすぐな道筋が開けている。岐阜第一高を卒業する直前、自分が写るポスターに「ピョンチャン五輪 金メダルとります」の決意とサインを記し、後輩たちに贈った。世界王者の称号もなかった当時、既に堀島自身が誓っていたピュアな初心。「チャンスを失敗で終わらせたくない」。覚悟を決めたホープが輝きを取り戻しつつある。

エアの練習をする堀島行真=白馬さのさかウォータージャンプで

エアの練習をする堀島行真=白馬さのさかウォータージャンプで

エアの申し子 契機は小4に

 モーグルの採点比率はターン60%、エア20%、速さ20%。この三つのうち、堀島が最も優れているのがエアだ。体の軸を斜めにして3回転する高難度の技「コーク1080」は中学時代に習得しており、平昌五輪では2回のエアの一つに組み込む計画だ。

 小学6年生の時に出場した大会で、横に2回転する「ダブルヘリ」に成功。公式記録では1回転とされたが「高さがちょっとしかなかった。回るのは得意だったが、今思えば僕の技術が低かった」という。ただ、子供には着地が難しいとされる技で、当時から「エアの申し子」としての片りんを見せていた。

 エアの楽しさを覚えたのは小学4年生の時。二つ上の姉から、三重県桑名市にあるウオータージャンプ場の1カ月利用券をもらったのがきっかけだった。スキー板をつけてジャンプ台を滑り、プールに飛び出しては水しぶきを上げた。

 冬場はスキー場へ。堀島は「ウオータージャンプでできた技が雪上でできるとは限らない。いっぱいこけたが、それが面白かった」と懐かしむ。子供時代に遊び感覚で繰り返したエアは、図らずも武器を磨く修練となり、世界王者となる素地をつくり上げた。

エアの練習をする堀島行真=白馬さのさかウォータージャンプで

エアの練習をする堀島行真=白馬さのさかウォータージャンプで

体づくり エースに食事学ぶ

 アスリートにとって体は資本。もともと故障の少ない堀島だが、急成長を語る時、独学で身に付けた栄養学の知識と、徹底した食事管理は欠かせない。

 昨年2月、W杯の試合中に転倒し、右膝の側副靱帯(じんたい)を部分断裂。シーズンの残り試合の出場を見送ることになり、復帰までの時間を使って、自身の体とじっくり向き合った。

 図書館で栄養学の観点から各種の料理を調べた。高校を卒業して実家を出ると、自炊生活。良質のタンパク質を摂取するため、ささ身を使ったメニューを増やしたり、コラーゲンを多く含んだ牛すじ煮込みを頻繁につくったりして食べたという。

 高校時代の体重は54キロほどで、細身だった。モーグルは「(斜面を下る)落下競技なので、スピードを出すにはもうちょっと体重があったほうがいい」と言い、食事の量も見直した。

 指導してくれたのは男子のエース、遠藤尚(27)=忍建設=だった。高校3年生の夏に合同自主トレーニングに誘われ、遠藤の自宅で寝食をともにした。練習後、夕食の1回だけで6合の米が2人の胃袋に消えた。

 身長166センチの堀島は現在、体重が66キロと大幅に増加。大学のトレーニング室などで体幹を強化する筋トレのメニューも黙々とこなす。五輪シーズンの開幕を前に「柔軟性や関節の可動域をしっかり保ち、けがをしない体で一日に何本でも滑れるようにしたい」と言い、本番に向けたコンディションづくりにも余念がない。

大学で1人黙々とトレーニングに励む堀島=愛知県豊田市の中京大キャンパスで

大学で1人黙々とトレーニングに励む堀島=愛知県豊田市の中京大キャンパスで

ほりしま・いくま
 1997年12月11日生まれ、岐阜県池田町出身。中学3年でワールドカップ(W杯)にデビュー。W杯の自己最高成績は2015年12月のデュアルモーグル3位。昨季は2月のW杯秋田たざわ湖大会のモーグルで6位入賞、同月の札幌冬季アジア大会でデュアルモーグルとモーグルの2冠を果たし、世界選手権でも2冠を達成した。

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