総裁候補をフォローする

総裁候補をフォローする

ネット上の支援者の横顔を探る

自民党総裁選挙は国会議員と党員・党友だけが選挙権を持つ「組織内部の選挙」にすぎないが、政権与党のトップは内閣総理大臣に直結するだけに、インターネット上でもさまざまな人々が意見を交わしている。日本で最も普及しているソーシャルネットワーク、ツイッター上で、どのような人々がどの候補を応援しているか、ちょっとのぞいてみよう。

総裁選に立候補した河野太郎行政改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行は全員、総裁選告示の前後からツイッターでの情報発信を強化している。

個人アカウントで巨大なフォロワー(メッセージの閲覧を登録した人)を持つ河野氏(230万人)と高市氏(22万人)は、新たに開設された総裁選専用アカウントが支援者の集結点になっている。普段あまり利用しているとはいえない岸田氏(6万人)と野田氏(1万人)も、選挙運動の様子を積極的に投稿し、フォロワーを増やしている。

告示日の深夜に取得した4氏のフォロワーの数は以下の通りだった。

フォロワー数では、専用アカウントを立ち上げた河野氏と高市氏が飛び抜けている。両氏のフォロワーの約9割は、その候補しかフォローしていない純度の高い支援者だ。岸田、野田両氏は7割弱である。

自分の投稿を非公開にしているフォロワーの比率は、河野氏が最も高く、高市氏が最も低い。

この候補はだれ?

ツイッターには、自分の経歴や関心事、主張を書き込むことができる自己紹介欄がある。その候補だけをフォローしている「純粋支援者」を抜き出して、使われている単語をカウントすると、それぞれの支援者の横顔が鮮やかに浮かび上がってくる。

この総裁候補の場合、一般的に使われる単語(大好き、連絡先など)を除いた、実質的に意味のある単語のうち使用頻度の最も高かった単語は、日本と政治、社会だった。子育て、家族、障害、医療という言葉が上位に現れるのはこの候補だけだ。

このような言葉を使って自己紹介を書くフォロワーがいるのは、野田聖子幹事長代行である。

約3割が日本あるいは日本人という単語(日本語)を使わないではいられないという意味で、この候補のフォロワーの自己認識は際立っている。アカウント開設初期からの支援者に限れば、その比率は4割に迫る。

保守、憲法、嫌い、国、守るなどの単語が特徴的なフォロワーが多いのが高市早苗前総務相である。

日本、政治の2語がもっとも頻度が高い。しかし、それ以外は経済、保守、情報などの固い言葉よりも趣味、音楽といった柔らかな単語が目立つ。

「野球」が広島東洋カープを指すと思われるフォロワーを持つのは、岸田文雄前政調会長である。

他の3氏と異なり、日本は最頻出単語ではない。趣味、ゲーム、猫、アニメなどの頻度が高い。

サッカーが登場するのはこの候補だけ。Jリーグ湘南ベルマーレの代表取締役だった河野太郎行政改革担当相のフォロワーの特徴は、非政治性だろう。

だれのフォロワーが活動的か

総裁候補の特徴は、フォロー数や投稿頻度にも表れている。

X軸にフォロー数、Y軸にフォロワー数、Z軸に投稿頻度をとり、4氏のフォロワーの分布を描くと以下のようになる。いずれも無作為抽出した5000人分で、3軸とも対数変換している。

青色は公開アカウント(だれでも投稿を読むことができる)、赤色は非公開アカウント(自分がフォローしている人しか読むことができない)を示す。

野田氏と岸田氏のフォロワーは、フォローされるよりフォローする数が多い。ツイッターには、自分をフォローしてくれる人が増えない限り、フォローできる数には上限(5000人)がある。2氏のグラフには「5000人の壁」がくっきり表れている。

高市氏の場合は、フォローとフォロワーの数が近い人が多い。いわゆる「フォロー返し」をして、緊密なコミュニティーを形成しようとしている。

河野氏は、せいぜい数百人程度のフォロー・フォロワーを持つ一般的ユーザーが多い。岸田・野田氏のように、フォローを増やしてタイムラインに表示される投稿を増やす情報収集型の使い方ではない。

フォロワーが積極的に発言するタイプかどうかは、投稿頻度によっても推し量ることができる。座標軸を傾けてみよう。

圧倒的に多い河野氏のフォロワーを一般的なユーザー像としよう。1日平均100回を超える投稿をしている人も珍しくない。4氏に共通することだが、めったにつぶやかないユーザーは架空アカウント(いわゆるボット)の可能性が高い。

この分布を見る限り、岸田氏のフォロワーにロム専(読むだけで投稿しないユーザー)が多いというわけではなさそうだ。

限られたコミュニティーと高頻度の投稿。高市氏のフォロワーの凝集性はここにも表れている。

メッセージがコメントを付けた読者によって再び投稿される仕組みのソーシャルネットワークでは、投稿(ツイート)には利用者の個性がそれほど表れない。話題を決めるのはその人ではなく、その人のタイムラインだからだ。その点、自己紹介欄は利用者が自分で選んだ言葉で自分を表現する特別な情報だ。

本稿で試みた集計処理は、単語を数えるだけの初歩的なもので、その単語に対する本人の態度が分かるわけではない。たとえば「政党を支持するほど無邪気ではない」のような否定表現や「ご立派な政治信条ですね」のような皮肉・反語を適切に処理できない。にもかかわらず、コンピューターを使って大量のデータを集計することで、4氏の支援者の集団的な自己規定が浮き彫りになっている。

データについて ツイッター社が公開しているAPIを利用し、9月17日深夜の時点での4候補のフォロワー情報を取得した。自己紹介欄の単語のカウントは、絵文字などを削除した後に形態素解析プログラム(Mecab)で単語を分類し、名詞・形容詞・動詞だけをカウントした。