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総合

投票済み証って必要?

2019年7月20日

 選挙で票を投じた有権者への「投票済み証明書」の交付を、やめるべきだという声がある。期日前投票が始まると、政党や労働組合などが支持者や組合員から組織的に回収し、票固めに活用する例があるため。憲法が保障する「投票の秘密」を侵される恐れがあるとも指摘される。総務省によると愛知、岐阜、三重の三県はほぼ全自治体が発行するが、全国では四割強が発行していない。

 愛知県内の自動車関連工場で働く六十代男性は参院選の公示直後、労組の委員から「投票に行きましょう。投票済み証を回収します」という趣旨のメールを受け取った。選挙ではいつものこと。メールで投票先の指示はなかったが、組合は推す候補を明確にしている。男性は「自分は、組合推薦でない人に入れる時もある」と語り、投票済み証回収に「意味ないと思う。だれに投票したかも分からないし」と冷淡だ。

 ある労組幹部は「組合員の投票率向上につながる。特定候補への投票の強制にはならない」と話す。

 自民党にも同様の例がある。党岐阜県連は公示前の選対会議で国会議員、県議、市議らに投票済み証を集めるよう要請した。県連側は「努力目標」とする枚数も示した。

 労組が活発な愛知県三河地方では昨秋以降、競合する保守系市議らが相次いで「投票済み証回収は『投票の秘密』を侵す恐れがある」と異議を唱えた。碧南市議会が投票済み証廃止を求める意見書を採択。刈谷、知立、高浜、安城の各市議会も同様の趣旨の市民の陳情を採択した。各市とも自民系会派などが賛成した。ただ、各市は「多くの有権者が持ち帰る。需要を無視できない」(碧南市選管)と参院選でも交付する。

 総務省によると、投票済み証交付に公選法の規定はなく、交付するかどうかは各自治体の判断。交付する各選管は、勤務の合間に投票した人が「仕事を怠けていたわけではない」と職場に示すことなどを想定している。

 同省によると、二〇一七年衆院選では全国の市町村の55%が交付。「投票所来場証明書」など名称はそれぞれ異なる。中部では長野県内は約四割、福井県内はあわら市のみの交付にとどまった。両県選管などを取材した限り、「投票の秘密」問題を考慮し、最近になってやめた自治体はない。交付しない市町村は「需要がない」として元々、交付していないようだ。「数枚用意したが、求める人がなく、『交付ゼロ』と総務省に報告した所もある」(長野県選管)という。

 大阪市は経費節減を目的に一三年の参院選前に廃止。五十万〜百万円を浮かせたという。

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